第五話 大正門
彼らが円陣を組んでミントの声を拾い、泣きながら叫んだその場所――彼等が死を決意したその場所から帝都の大正門まで五百メートルほどの距離だった。僅かその距離を進むだけでも複数の敵対種に襲われた。無論、彼らの舞闘力は訓練されていない野生の敵対種に負けるようなレベルではなかった。今、彼らの階層を測定すれば恐らく皆、第三階層の老隈と判定されるだろう。それも限りなく、第二階層の帝に近い筈だ。そこまで到達すれば、野生で脅威と成る存在はほぼ居ない。虹目や野生の神は別としても、彼らを打ち負かせる存在は帝や守護者をおいて他には居ない。
「うわ。また来たぁ。」
クウは愚痴る。彼らはこれから数時間以内にラスと最終決戦を行わなくてはならないのだ。少しでも体力は温存しておきたいが敵対種がそれを赦さない。そのクウの気持ちを汲み取るかの様に雲龍は先陣を切って敵に挑み、トト達でさえ舞闘を手伝った。そのお陰もあって、クウ達は一時間ほどで帝都の正大門に到達した。魂気は殆ど消費していなかった。そして。
――高さ百メートルの城壁を持つ帝都は壮観だった。
城壁を取り囲む幅五十メートルもある堀は深く澄んだ水を湛えていた。恐らく森の湧き水が流れ込んでいるのだろう。正大門に続く架け橋は下ろされており、クロガネの棘に覆われた門は開かれたままだった。
「このまま進むのか?何か罠があるかも知れないぞ。」
ロイは慎重を話す。しかし、クウはあっけらかんとしている。
「うん。このまま行く。だって、ラスは僕たちより強いから、変な罠を用意するくらいなら、少しでも魂気を回復した方がいいもん。多分、中に居る敵はラスだけだよ。」
そう話すクウの足下で、トトが小さな瞳をきらきらさせて見上げていた。
「私達の出番って事で良いですか?」
「うん。お願いしたいんだけど、僕たちも進むから。トト達は少しでも僕たちより先に進んで、状況を教えて欲しいんだ。出来る?」
「お安いご用です。」
トトは快活に答えて、百匹のオコジョは帝都の雑踏に駆け込んでいった。




