第二話 凶報 2
彼らは一旦足を止めてミントとの交信に集中した。森の底で円陣を組んで座っている。水紋と帝都は丁度、世界の反対側に位置しているため、交信が困難なのだ。一番耳の良い……ぶっちゃけ眼もいいし、というか機甲蟲の感性が群を抜いていた……ロイにクウとハクの念珠を付けて貰って、彼の背中から謎めいたアンテナを張ってミントの声を拾った。ロイが感知したミントの声はロイのスピーカーで増幅してクウ達に届けた。それでもミントの声は不鮮明で砂嵐の向こうの声に聞こえた。だが、必要な情報は全て拾えた。
「クウ。聞こえますか?声が届きにくいということは、私の想定より早く遠くまで到達したということですよね。そう、受け取ります。大事なことから先に。水紋は空白に待避できました。そこは安心してください。でも、昨日、水紋に貪食生物と黒嵐が到達しました。一瞬で水紋の掌上は消滅しました。今、私達の命を守っているのは空白の外壁です。世界の骨格とも言える白壁に全ての命を預けている状態です。彼らはいつ去るとも知れず、皆怯えています。クウ。ハク、ロイ。元気ですか?覇国は近いですか?急に不安になってます。クウがラスを倒しても結局、みんな死んじゃうんじゃないかって。じゅ、ジュカがそうだったように……。」
極端に声が聞き取りにくくなり、クウ達は必死にミントに問いかけたが、返事は無かった。ミントは話しの続きを語る。こちらの声は届いていないのだ。
「クウ。私は怖いです。私は希望を抱いていて良いのでしょうか?世界は滅びずに続くのでしょうか……クウ。クウ?聞こえていますか?」
クウは何もかもを失ったミントの事を想い叫んだ。
「聞こえてる!ミント!僕達が何とかするから!全部が決まるのは、最後の一瞬だから!まだ何も決まっていないから!待ってて!必ず――。」
「駄目だ。切れた。」
ロイの呟きで、ミントとの……水紋との、彼らが生まれ育った世界との……最後の交信が終わった。舞闘に関する交信はこの後一度だけ行われるが、気持ちを交換するような交信は、これが最後だった。そして、彼らはまだ知らないが、彼らは大好きな水紋に帰ること無く――世界は滅ぶのだ。




