第一話 凶報 1
塩乃道の時とは違い、今回のお礼の終わりは落ち着いたものだった。灰の山脈から離れるに従って、徐々に山祇の息吹は弱まり、温暖な気候に氷の稜線はどんどん溶かされて低く小さくなっていった。そうして、クウ達の移動速度も減速する。足下の氷が無くなったところでふわっと投げ出されたが、彼ら全員問題なく着地した。
「おー。ついたぁー。」
彼らは暖かで豊かな森の中に降り立った。小さな鱗属のクウとすらりと背の高い毛属のハク。大柄な機属ロイと巨大な神獣ウーリ……トト達はウーリの毛皮に埋もれている……なんとも個性溢れる旅の仲間達だった。この零鍵世界の最も素晴らしい部分――類い希なる多様性――が凝縮された風景だった。今の時間は、丁度真上から照らす太陽が彼らや木々の下生えの底まで光を届けていた。森が輝いている。鳥や虫たちの声が心地よかった。平和な森の梢の上からは、数百メートル向こうに存在する巨大な城壁が見えていた。覇国の帝都の城壁だ。ハクが思わず感想を漏らす。
「厳ついなー。」
「だな。」
三人は完全食を囓りながら進んだ。急げば夕方までに帝都の王城である覇宮に到着出来るはずだ。彼らは内心、早く行かなくてはと行きたくないなを交互に感じていた。何故なら、覇宮には王の間があり、その掌上玉座でラスは待ち構えているからだ。彼らは死ぬかも知れないと思っていた。森は明るく暖かく、美しかった。でも、彼らの心は重く堅く沈む。いよいよ、その時が近づいてきているのだ。ハクがその空気に耐えられず、話し始める。
「ほんっっと、ピクニック日和!ねぇ。暇だし、しりとりでもしない?」
ハクの気持ちも知らず、ロイは真面目を言う。遊んでいる場合ではない、と言う理屈だ。
「いや、駄目だ。」
「だ!ダムカレー!」
「レモンパイ!」
「いや、駄目だって。」
「て、てんむす!」
「炭!」
「み……ミント?」
「って、結局ロイも参加してるじゃん。」
クウとハクが大笑いするのをロイは制した。ハクは舌打ちしてクソマジメーと呟いた。彼女は眉間に皺を寄せて“いー”の顔になっている。ロイは気にせずに続ける。
「聞こえないか?ミントからの交信だ。」




