第四十六話 灰の山脈 20
最初、灰の山脈の氷壁から氷の稜線が裾野に向けて伸びた時は彼らは何が起こっているか判らなかった。次いで氷の稜線が移動し、ウーリの背に乗り、道程を引き返している自分たちの真下来たことで彼らは直感した。
「ねぇ!あたし達のルートにぴったり重なった。きっと偶然じゃないわ!」
ハクがウーリの背から真下の氷の稜線を見て叫んだ。
「ああ。必然だろうな。誰かが灰の山脈と帝都を繋ごうとしている。俺たちを帝都に行かせたくない誰かか、帝都に行きたい誰かだ――見えた。」
話しながら視界をズームしていたロイは稜線上に高速移動する小さな存在を見つけた。まだ数十キロは先だったが、ロイはそれが何であるか確認出来た。
「クウだ!降りよう!」
ハクとトトは抱き合って喜び、ウーリは吠えた。彼らは真っ直ぐ降下して氷の稜線に降り立った。そのまま、クウの名前を呼びながら走り出した彼らだったが、直ぐに足を止めた。トトが精一杯背伸びをして、クウの様子を見る。
「あー。ちょっと、あれですね。とても速そうですよ。クウさんは。」
「うー。なんかやばめかも。」
「だな――。」
ロイの短いその言葉を発せされた時には既にクウは一キロほどの距離に居た。ロイは危険を感じて咆哮を上げる。
「クウー!!俺たちだ!減速しろ-!」
クウは何事かを叫ぶが、ロイ達には全く聞こえない。ウーリが蜷局を巻いてクウを受け止めようとした瞬間にクウが到達した。凄まじい衝撃で仲間を巻き込んで、全員がクウと同じように超高速で移動する塊になった。
「ごめん!みんな。これはお礼らしいんだけど――。」
「オオクジラ方式ね。なんかの流行なのかしら。」
ロイがいつもの短い返事をして、クウが笑い出した。それを見たハクもロイもトトもウーリも笑い出す。彼らごちゃごちゃに絡まって、制御不能な超高速で移動していたが、不思議と緊迫感は無く、どこか楽しそうだった。
「ま、何でもいいが、とにかく再会出来てよかった。」
「ダナ。」
ハクがロイのモノマネをして彼女たちはまた大笑いした。当初、帝都まで残り一週間と見ていたが、この様子であれば数時間で到着する。彼らは再会の喜びに浮かれていたが、それも直ぐに終わる。到着までに作戦を再確認しなくてはならないからだ。彼らは予想を遙かに超える早さで帝都に到着する。それは彼らにとっては何者にも代えがたいアドバンテージだった。そして、帝都に到着すれば、掌上玉座に身を委ねている玖鍵世界の守護者――ラスと対峙しなくてはならないのだ。魂を、この世界の存亡を賭けた最後の舞闘が始まるのだ――。




