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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第十一章 最後の旅。
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第四十話 灰の山脈 14



 クウの両足は完全に滑って足場を失った。足裏の抵抗が無くなったクウは、その後の展開に備えようと眼下を睨んだ。高さは何とかなるが、長蟲の攻撃を喰らえば命は無い。体技とオーロウを駆使してなんとか長蟲ワームの争いを躱しきるしか無い。覚悟を決めたクウはしかし。


 「お!おおぉぉぉ……お、ちない?」


 クウは落ちなかった。完全に足が宙ぶらりんになっていたがクウは落ちなかった。両手が尖塔を掴んだまま滑り落ちなかったのだ。クウは全く気付いていなかったが、輪廻転回した彼は特種な掌を持ち、垂直だろうがバングしていようが、壁という壁に取り付くことが出来たのだ。慌ててブーツを脱ぎ捨てる。


 「おー!余裕じゃんか!」


 クウは両手両足で尖塔に取り付くと完全に身体を固定することが出来た。そのまま立ち上がり、足踏みをした。片足でも落ちることは無く、地上と変わらない足踏みが出来た。彼の手足は、重力よりも遙かに強く尖塔の壁に吸着していた。クウは試しに走り出した。何も問題は無く、彼は尖塔を駆け上がる事が出来た。この発見は、もっと以前に見いだされるべきだったのかも知れない。だが、今、この時に発見出来たのであれば、決して遅すぎることはない。今、この時にクウのこの能力が発現できたのは、彼の諦めない性格があってこそだ。彼は不屈のモルフ、クウだ。クウは、この大逆転に走りながら笑い、笑いながら叫んだ。


 「ずっと、ブーツ履いてたから知らなかったよ!僕、ヤモリモドキモルフだけど、ヤモリ的な力があるんだねっ!モドキってなんだろ??」


 それはここには居ない仲間達に向けた言葉で、喜びと希望に満ちたものだった。彼は笑い顔で走り抜ける。一瞬で、クウは尖塔の頂上に到達する。


 そこは僅か直径一メートルの頂上だった。



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