第三十八話 灰の山脈 12
クウは声が対立していることを直感して、腹を括った。クウは再び走り出す。そうしながら大きな声を出す。
「僕はクウ!東方大陸の最後の国、水紋は霧街からやってきた!あの火球は僕が貰うよ。後で返しても良いんだけど、とにかく一旦、僕が貰うから!」
「成らぬ!!」
「頼む!!」
認否両意の回答を受けたクウはしかし、戸惑うこと無く剣の樹海を走り抜ける。樹海はすり鉢状のこの地下大空洞の半分程で終わっていた。その後は何もない岩場が続いている。クウは剣の樹海の最後の一区切りを走り抜ける。樹海の終わりには数十メートルほどの崖がありクウはためらうこと無く、跳躍した。クウは崖の底に着地する。
「堅ったぁ!」
足首と膝に堅い岩場の衝撃が伝わった。その後で、大地が樹海の中のような暖かな熱を持っていないこと理解した。
何だろ?樹海の中と全然違う――。
戸惑いながらも駆け出すクウに否の声が掛かる。
「火球を渡す訳にはいかぬ!」
爆音の様な声が響くと供にクウの右手の樹海が持ち上がり、鎌首をもたげて襲いかかる。クウは漸く理解した。これまで剣の樹海と思っていたその場所は大地のように巨大に成長した長蟲の背で樹木と思っていたのその体表を覆う剛毛だったのだ。否の主はその言葉通り、クウを阻止しようと巨大な身体をクウに向けて振り下ろした。クウは、回避不能と判断してオーロウを発動――声が響く。
「火球を持ち去ってくれ!」
クウの左手から別の長蟲が立ち上がり、右の否の声に身体を打ち付けた。ぶつかって折れた剣の樹木……要するに長蟲の剛毛……がクウに降り注ぐ。クウは素早く回避して、否の声と認の声の下をくぐり抜けて尖塔に向かった。その間にも認否両意のその声達は互いに身体を打ち付けて静かで平穏に見えた地下大空洞を揺るがした。




