第三十三話 灰の山脈 7
クウは山祇から受け取った氷玉を金剛錫杖に括り付けて光源にしていた。一応の命綱をつけてするすると降りていく。その亀裂は深く暗く蒸し暑かったが氷上の世界を思えば、熱は心地良かった。むしろ、不思議な活力が沸いてきて、クウは自分は山祇とは異なるのだと実感した。
(きっと、僕は夜や闇じゃなくて、陽や光に属するんだろうな。)
それは優劣では無く、並列のカテゴリに過ぎなかったが自分の立ち位置が判ることは良いことだった。自分が何者であるかを知ることは強さに繋がるのだ。特にクウの様に天涯孤独の身となった者にとっては。
クウは、そんなことを想うと無く感じている内に、狭い亀裂が巨大な地下空間に到達したことを理解した。クウは注意しながら身を乗り出して遙か眼下の世界を照らす。そこには大きな空気の流れがあり、氷玉の光が届かない巨大な空間が存在していた。その空間の天井部分からクウは顔を出していた。
「どうしよ。何もないや。」
周囲を探るクウの呟きも、地下空間に吸い込まれる。選択肢はいつも二つだ。進むか戻るか。クウは考えた。途中で火球を見落とした可能性を。その可能性は低そうだった。山祇はこぶし大の火球だと言っていた。途中の裂け目の岩肌はゴツゴツとしていたが、こぶし大の燃える火球が隠れる場所は無かった。だとすればこの空間の更に下だ。クウは思い切って飛び降りようと……して、やめた。今一度、精神を集中させて魂気を探ることにしたのだ。この氷のカマクラで大きな魂気は二つあった。一つは山祇で遙か上層にいる。もう一つが恐らく火球だ。その物体……炎?……が何故、魂気を発するのか判らなかったがそれはとても大きく強い魂気を放っていた。
(火球の魂気は極大じゃ。我は火球に危険を感じて外界と魂気を遮断する術をこのカマクラに施したのじゃ。)
クウは山祇の言葉を思い出した。つまり、落ちついて魂気を探れば、見つけられるはずなのだ。クウは少し上に戻って、亀裂が狭くなっている辺りで金剛錫杖をつっかえ棒にしてその上に座って呼吸を整えた。さすがに全は組めなかったが魂気を探すことはできた。そしてそれは直ぐにクウにその存在を告げてきた。それはやはり――彼の遙か下に存在していた。




