第二十六話 穴の高地 7
クウが野営地に戻ると、ハクとロイにものすごく怒られた。灰色山脈が傾くような大地震が起こった時にクウが居なくて、二人は死ぬほど心配したのだ。トトの方を見るとトトは気まずそうにウーリの毛皮の下に隠れたので、余りに慌てるハクとロイを前に言い出せなかったのだと理解した。
(これは貸しだからね。)
クウはそう思いながらトトが全てを知っていたことは話さなかった。トトはウーリの影から顔を出して頷いた様に見えた。気持ちが通じたような気がしてクウはふふふと笑った。怒っているのに笑われたハクは更に爆発して、正論を吐き続けた。十分ほどやいのやいの言われて、クウは漸く解放された。暫く皆で焚き火を囲んた後、夕飯になった。皆、いつも通りに完全食を食べようとしたが、クウが制した。
「ねね。良い知らせがあるから今夜は贅沢に塩漬肉で夕飯にしない?」
「いいね!のった!」
景気よくハクが同意する。言いながらリュックに手を突っ込んでザラムを取り出しかじり始める。ロイはいつもの返事だ。トト達は虫や小動物を勝手に捕まえて食べているし、ウーリは……なんと!……霞を食べて生きるので、塩漬肉を食べるのは仲良し幼なじみの三人だけだった。近くの川で綺麗に洗った根菜やサボテンを切って鍋で塩漬肉と一緒に煮込んでスープにした。大ぶりの器に装って三人仲良く食べた。食べながらクウは灰色山脈の麓の大穴で劫末に出会った話をした。ハクやロイも劫末のことを……その巨体の為……目撃していたので、クウの話は凄く納得できた。
「オオクジラって、結局、味方なの?敵なの?」
明確さを求めるハクはクウに問うた。クウは肩を竦める。
「どっちでもないよ。だって、(悪い事かどうかは最後の瞬間にしか判らないのです。それまではただの経過でしかないのですから。)って、言ってたもん。」
「虹目達の目的は何だ?そこが焦点だ。」
ロイが突っ込む。クウは塩漬肉のスープをハフハフ飲みながら答える。
「多分。自分らしく生き抜くことじゃないかな。だって、僕でさえそうだもん。あれだけ長生きした超生物が何かの欲……長生きしたいぜ!とか金持ちになりたいぜ!とか……なんてあるわけ無いじゃん。もっともシンプルな――なんて言うか、強すぎる故に生死を顧みないような命題を持ってると思うよ。例えば、笑いながら死ねればいいや的な?」
クウの話の展開にハクもロイもぽかんとなった。クウは昔からこうだ。ナニか……ハクやロイが感じることの無い何か……を見てその正直を語るのだ。それはいつも大きな説得力を持って彼らの心を揺さぶった。今も、あの超生物が"ジブンラシクイキヌクコト"を命題としているんじゃ無いかと言われて、納得してしまった。確かに、長く永く生きて行き着くところがあるのなら、そういう所かも知れない。ロイがクウに敵わないと感じる瞬間でもあり、ハクがクウへの敬愛を大きくする瞬間でもあった。
「ね。冷めるよ。食べようよ。明日は灰の山脈を登らなくちゃいけないし。」
突然のクウの話にハクとロイは声を揃えた。
「なんで!?」
当然だ、彼らの背後に聳える灰の山脈は空の半分を覆う大きさで、数千メートルはある。ハクは、器の汁を零していることも気付かずに、クウに突っ込む。
「いや、なんで登っちゃうのよ。むしろ?」




