第九話 傍観者。
舞闘場にある貴賓席……黒丸と渦翁がひそひそ話を続けている席……の背後には水紋国国旗の掲揚塔があった。観覧席の最上部から更に五十メートルは高く伸びる。塔の最上階には、舞闘の開始終了を告げる銅鑼がありその屋根の上に国旗掲揚用のポールが備えられていた。舞闘がある日は必ず、国旗が掲揚される。当然、本日も掲揚され、海風に勢い良く靡いていた。その、横。
「そろそろロイも限界かな。」
ハクとロイの舞闘を観戦するモルフが一人いた。勿論、この様な場所からの観戦は禁止されていて、見つかれば、厳しく罰せられる。だが、彼は落ち着いた様子だ。彼は成体にしては小柄だった。ヘルメットを被り、ゴーグルを装着している。口元はバンダナで覆っている。背中には色々な工具が入ったリュックを背負い、汚れた作業着に安全靴といった出で立ちだった。そして、包帯。身体中に包帯が巻かれていた。まるで全身に火傷を負っているかのような包帯の巻き方だ。彼は首に巻いている数珠が気になるのか、そわそわとひっきりなしに触っていた。そこは見晴らしの良い場所で誰に見つかってもおかしく無かったが、彼は気配を消す事が得意で、これまでに一度も咎められた事は無い。
彼は、今日も舞闘場の最上部からひっそりと舞闘を観戦していた。




