第二十話 穴の高地 1
「その時、このトトがウーリに言ったのです。"さぁ、ハクさまを助けに行きましょう!"と。」
無事全員が生き残った彼ら最後の冒険者達は、少し早い野営を始めた。ロイは燃料切れで火の熱か太陽の光を吸収する必要があったし、ハクは大落下で調子を悪くしたらしく、吐いてしまった。ウーリも疲れ果てて眠そうだ。結局、元気があるのはクウとトト達だけだった。
「僕は一応、活躍したんだからね。」
「我々もそうですよ!今の話、聞いてなかったのですか?クウさん。」
「いや、だって、ウーリの背に乗ってただけじゃんか……。」
「いやいやいや、それはしっかりと聞いていませんでしたね。ではもう一度、最初から我々の活躍の物語を……。」
一人と百匹はたき火の番をしながら無駄話を続けていた。彼らが到着したのは恐らく覇国が君臨する、中央大陸のどこかだ。劫末が二日もあれば帝都に着くと言っていたし、少し方向を間違えたとも言っていた。劫末に吹き飛ばされてから、丁度、二日が過ぎていたので、もう、この近くどこかに帝都があると見て間違いなかった。つまり、ラスも直ぐ側だ。クウは急に緊張が増して、唾をぐいっと飲み込んだ。まだ、慌てる必要は無い。ラスは掌上玉座で自分たちよりもひどい消耗からの回復を図っている筈だ。
(今のところは、僕たちの方が先の先を進んでいる。)
それに、ロイが回復すれば直ぐにここがどこか判る。今は少しでも休ませてあげた方が良い。クウはロイには何も言わずに推理する。ウーリに尻尾で少し持ち上げて貰い周囲を見回したが、無限に荒れ地が拡がっているだけだった。唯一、東側には果てが見えないような灰色の山脈がその上部に深い雪を湛えて拡がっていた。劫末の"少し間違えた"が、本当に正しければ、帝都があるのはあの灰色山脈の向こうだ。灰色山脈までは恐らく二十キロメートルほどだが、周囲の荒れ地は優に百キロ四方は続いている。一番、近い場所で確認できていないのが灰色山脈の向こうだからだ。
「落ちてくる時もっと周りを見とけば良かったな。」
推理に確証を持てないクウは呟いた。
「見てなかったのですか?油断しましたね。」
トトがクウの独り言に口を挟み、クウはひらめいた。トト達は二百の自由が効く眼を持っている。しかも、弥次馬する以外に特別やることも無かった筈だかから周囲の様子をしっかりと把握しているに違いなかった。クウは、きらきら笑顔でトトに話し掛ける。
「トト!凄いじゃん!ひょっとして見たの?灰色山脈の――。」
「勿論。見ましたよ。"灰色山脈の"ですよね。」
「そう、その向こう側に――。」
再び、トトは被り気味にしかも、得意満面の顔でクウに伝えた。
「ええ。灰色山脈の手前に大きな穴が空いていました。しっかりと見ましたよ。」
「ま……まぇ?」
空振りの回答にクウは気が抜けたような返事を返した。




