第十七話 空 4
ハクを追うクウとロイは、再び彼女に並んだ。ハクは完全に意識を失っていた。小さなピンクの鼻から真っ赤な鼻血が零れていた。ロイとクウの胸に小さな焦燥がグサリと刺さった。ロイの背に乗るクウはロイとアイコンタクトを取る。ロイは頷き加速してハクを追い越した。地上まで五百メートル。
「行くよ!」
クウはロイの背を飛び立って、大空に何の頼りも無く浮かんだ。衣服を精一杯広げて風を受けて減速する。ロイは逆噴射で減速するがそもそもの加速力が大きく一瞬で豆粒大になる。クウは上空のハクを見やり、器用に身体を動かしてハクに近づく。
(……一乃越でやろうとした落下傘大作戦を今頃やるなんてね。)
クウは一瞬、あのまだ皆が生きていた時間を思い出し、懐かしく感じたが直ぐに現実に帰ってきた。勿論だ。彼にはやらなくては成らないことがあるのだから。ハクがぐんぐんと迫る。真っ直ぐにクウに向かって落ちてくる。クウはバランスを取りながらハクが彼の側をすり抜ける瞬間に手を伸ばし、ハクを捕まえ……られなかった。単純にクウの腕が短すぎたのだ。気絶したハクは彼の側をすっと通り過ぎ――。
「ハーーーーク!!」
クウは絶叫し、その叫びに彼女は眼を見開いた。一切の迷いも無く彼女はすらりと長い腕をクウに伸ばす。彼らの手が合わさり、指が絡む。クウは両手両足を伸ばし全ての風を捕まえようとし、ハクもまたそれにならった。
「クウ!楽しいことしてるじゃん!」
ハクは鼻血を出しながらも、黒い瞳をキラキラさせてクウに笑いかけた。二人は大空を大の字で落下していった。
「ハク!クウ!」
漸く、逆噴射に成功して落下速度を減じることができたロイは彼らの側に到達した。三人は手を繋ぐ。にかっと子供みたいな笑いを浮かべる。
「なんとか間に合ったね!」
「てか、まだ落ちてるけど?」
「だな。」
笑う三人が居るのは、しかし――地上まで後、百メートルの空中だ。




