第十六話 空 3
まっ白い水蒸気が空を切り裂くように真っ直ぐ荒野に向かって落ちていった。その正体はロイ。背中にクウを乗せたロイが魂力核を全開にして大地に向けて突進しているのだ。余りの速さに引き裂かれた空が水蒸気となり、彼の後に長く尾を引いていた。
「ハーーーク!!」
ロイは叫んだ。巨大すぎるオオクジラの劫末が作り出した塩乃道が消滅した瞬間に塩乃道の推進力は弾けて、ウーリの背に乗っていた彼らを四方八方に飛び散らせたのだ。ハクは一人だけ遙か眼下に吹き飛ばされ、その落下の衝撃で気を失っていた。ハクは頭を下にして真っ直ぐ大地に吸い込まれていく。雲一つ無い青空と赤茶けた荒れ地の二色で形成される世界を白いハクとロイの水蒸気が繋いでいた。ロイは限界まで加速する。大地に激突しなくて済むか?については議論の余地があったが、ハクに空中で追いつくことについては間違い無かった。
「後、3秒でハクに並ぶ。クウ。ハクを頼む。」
ロイはクウに全てを託した。ロイの魂力核はその力の全てを推進力として使用していて細かい軌道修正ができない状態だった。このまま進めば、ハクの直ぐ側まで到達するが、ロイは身体を動かしてハクを掴むことができないのだ。
「任せて!」
クウが安請け合いした瞬間に彼らはハクの横に並んだ。クウは手を伸ばすが、届かない。ロイは推進力を弱めて、ハクを追い越さないように調整したが、減速が大きすぎてハクが遙か先に行ってしまう。
「ロイ!駄目だ。ハクは気絶してる。こっちからしっかり捕まえないと!」
「すまん。速度調整が難しい。もう一度チャンスをくれ!」
「だめ!ロイ!全力で進んで!!」
クウはロイのリベンジを斜めに断った。
「僕の言うとおりにして!」
超高度で彼ら幼なじみの生死を賭けたミッションが開始された。




