第十四話 空 1
いや、当然と言えばそうなのだが、鯨は潮を吹く。今、彼らは劫末が噴出した塩の道を進んでいた。直径百メートル程の虹色の透明なチューブの中を彼らは滑るように進んだ。周囲の風景が遙か後方に飛び去っていく。
「えーと、これはつまり――何?」
「わっかんないよ。」
「だな。」
彼らは虹色のチューブの中をとんでもない速度で進んでいた。崩壊した極北大陸は遙か後方に置き去りだ。単純な鯨の潮の噴出力で進んでいるのでは無く、練術に近い何かの効力が働いていた。
(私を氷塊から救い出してくれたお礼です。クウ。私の塩乃道で覇国まで運ばせてください。二日もあれば到着する筈です。)
劫末の優しい声が塩乃道に響く。それを聞いてクウ達、最後の冒険者達は歓喜の声を上げた。彼らはウーリの鞍に食料も水も蓄えがあったので、このまま帝都まで着陸せずとも問題は無かった。むしろ、ラスが快復する前に帝都に到達できれば、自分たちにはメリットしかない。クウ達はそれぞれの声で精一杯、本心からのお礼を劫末に述べた。そして、そろそろ帝都に到着すると想われた時、再び、劫末から声が掛かった。
(クウ。私が用意した塩乃道はここまでです。これ以降は自力で進んでください。途中、どこかで強力な魂気と出会うかも知れません。それがどの様な姿、状態であるのか、私には判りません。もうずっと昔に見えなくなってしまったのです。もし、運良くそれに出会えたのなら――クウ、死なないでください。強い魂気の側には、良いものも悪いものも集まりますから。そして、もしそれに出会えたのなら――手に入れるのです。必ず。それは大きな幸いになるはずですから。)




