第五話 極北大陸 2
彼ら三人(とその式神さん達)の選択したルートは北方大陸の中心に位置する極北大陸を経由するルートだった為、当面は極寒の旅が続く。但し、陸がある為、毎晩、大地に降りてテントを張りウーリの暖かな体毛に包まれて眠った。実際はテントの外からウーリが包んでくれているので、その表現には語弊があったが、まぁ、そう言ったところだ。ハクとオコジョは勿論、特にクウにとってはそれはとてもありがたいことだった。クウはトカゲモドキというよくわからないモルフだったが、いずれにしても鱗属であることは間違いなく、鱗属は共通して寒さに弱かった。勿論、自力で体温調節はできるのだが、毛属であるハクと比べると格段に寒さに弱い。
「南方大陸ルートにすれば良かったなぁ……。」
防寒着でもこもこに着ぶくれしていながら、クウは一時間に一度はこの愚痴を零した。その度にハクによしよしされ、オコジョにくすぐられ、ロイは搭載しているヒーターを強めてくれた。そもそも、ウーリはその体毛を可能な限り逆立てて、背に乗る彼らを寒さから護っていたし、ウーリに付けた鞍は天蓋付きの鞍で直接極寒の大気にクウ達が触れることもなかった。それでもクウは寒かったのだ。
「クウさん、笑いながら言っても説得力がないですね。もっと悲しい顔をしなくては。」
トトが上から目線でクウを諭す。諭す方向性もずれているが、ベースの口角が上がっているトカゲモドキのクウには無理な相談だ。
「いや、こういう顔になっちゃんたんだもん。」
「てか、昔っからそんな顔だったと思うよ。」
「だな。」
「うそだぁ。前にハクにクウは表情豊かだって言われたもん。」
「うん。言った。それと笑い顔とは相反しないよ。」
「だな。」
「ロイさんは”だな"しか言いませんね。ゼンマイがねじ切れたのですか?」
「ダナ。」
トトの突っ込みの後に、ハクがロイの決めぜりふを奪ったところでクウが爆笑した。ロイは困り顔だ。一瞬だけ、世界の帰趨を決める旅の目的は忘れ去られて、平和な空の旅となった。でも、それもただの一瞬だ。彼らの旅の最後に待つのはラスで、そこには命がけの舞闘が待っている。勝負を決するのは時間。少しでも早く帝都に着くことが彼らの舞闘の決着を変えるのた。しかも、そろそろ、彼らは極北大陸の上空を通過する。そこにはもう一つの虹目が存在しているのだ。




