第二十二話 この世界 9
強い風が吹いていた。海は泡立ち、雲は低く世界を押しつぶそうとしていた。三人の幼なじみは分厚いコートを身に纏い、フードを最大限に深く被っていた。霧宮の裏手だった。雲龍は皆を乗せるため長く伸びている。ずぶ濡れになっていたがウーリは不平の一つも零さない。
「近いうちは毎日でも問題ありません。でも、世界の半分も過ぎれば、私の神意顕現では届きにくくなります。なのでそれ以降は念珠と神意顕現を合わせて使用します。しかも、いざ、と言う時だけになります。」
世界最高の巫女であるミント姫はクウ達に告げた。クウ達はミントだけに自分たちの行おうとしていることを教えていた。恐らく、帝都の状況を知らせる必要が出てくると考えていたからだ。彼女以外には教えていない。その彼女は念の為確認する。
「本当に行くのですか?とても危険です。」
クウは元気よく頷いた。
「そだよ。僕たちは行くんだ。これは僕たちの人生――じゃなくて、僕たちの物語だから。」
彼らは一つの夢を共有していた。それを明確に口にしてきたのはクウだけだったが、ハクもロイも同じ思いだった。今はもう違うが、最後の子としての決意を、果たすべき役目を夢として持っていた。
「僕たちは行く。救うんだ。この世界!」
その後は、ミントが名残惜しむ間もなく、彼らはウーリの背に乗った。その刹那、クウは思い出して、黒丸の金剛錫を授けてくれたミントにお礼を叫んだ。それにミントが返す間もなく、ウーリは飛び立つ。途端に嵐は収まり、いつもの美しい気嵐が海上を覆った。ようようと朝日は登り、世界は美しく染まっていく。ミントは何となくもう、彼らとは会えないだろうなと直感しながらも、だからこそ呟いた。
「また、あいましょう。」




