第二十話 この世界 7
その後、ミントは隠れ家の医療施設に運ばれて八掌の治療を受けた。すっかり、快復したミントは再び逐鹿の部屋で水紋の指導者達を前に、神意顕現で見たことを話した。
一つ。朧の大部分は帝都の障壁の中に存在していた。世界を彷徨っている朧はほんの一部だった。理由はわからないが、朧は無限に分割できる存在ではないのだろう。だから、世界が一瞬で朧に消される心配は要らなかったが、それでも、その一部の朧でも水紋を消す位であれば充分可能な魂気を保有していた。
一つ。空の眼と流動する闇は、行動を共にしていた。水紋の国に真っ直ぐ進む場合は、一ヶ月ほどで到達する距離に位置していた。ただ、それらの進む先は、コンパスを失ったかのようにデタラメで、到底、水紋の国に到達するとは思えなかった。
一つ。ラスは帝都の掌上玉座にいた。夏至夜風よりはマシな状態だがそれでも快復するまで三ヶ月ほどは掛かりそうだった。それまで彼はそこを動くことはないと思われた。帝都中のモルフを喰らい、魂気を吸い取ったとしても、掌上玉座から得られる魂気の方が遙かに多いからだ。
水紋はミントの神意顕現で得られた情報から、隠れ家に速やかに移住することを最優先事項とした。水紋から帝都まではどんな飛行能力を持つモルフでも半年は掛かる距離だ。ラスが快復する前に帝都に到達する方法はただ一つ、ラスが通った経路……即ち、空白の亀裂を抜けていくしか無かった。しかし、その経路には朧が存在し、見つかれば、太刀打ちできない。そして、その空間には朧以外は何もないことを考えれば、驚異的な運か速度を持たなければ、勝機はなかった。
「とにかく、移住を急ぎましょう。いくつか先の区画に移動出来ればラスから完全に身を隠すことができるかも知れないわ。」
イソールは皆に最終確認を行った。誰も異存は無かった。クウ以外は。
「ねぇ。ラスが元気になったらどうするの?ラスなら暴れ回ってみんなのことを見つけると思うよ。」
「そうね。でも、もう、私達には勝てる舞闘者が居ないのよ。今、水紋に居る最大舞闘力を持つのは、パーロッサ、ロイ、そしてハクの三人よ。勿論、舞闘力が未知数の貴方を数えても良いわ。でも、ラスには叶わないわ。先の舞闘ではっきりしてるのよ。」
イソールは聞き分けの悪い子供を諭すようにクウに伝えた。クウは少し考えてから何か言おうとして……飲み込んだ。
「そっか。そだね。わったよ!」




