第十七話 この世界 4
日は完全に落ちていた。真夏の生暖かい夜の帳がクウを包む。クウは一際高く盛り上がった瓦礫の上に寝転んでいた。星が綺麗に見えた。雲一つ無いその夜空は、まるで沢山の小さな穴が空いた闇色の布で覆われた光り輝く世界があるように見えた。何故かその妄想はクウを少しだけ元気にした。それでも、クウの意識はぐるり廻って、零鍵世界に還る。
……舞闘場ってなんだろう?
クウは夏至夜風と出会ったことで、余計にそのことが気に掛かった。
(鍵の守護者が、日輪さまが作ったって言ってた。やっぱり、星神様の範疇じゃないんだ。不思議だな。零鍵世界を支配して見守る鍵の守護者も大神さまも神さまだけど、お祈りするのは星神様だもんな。変なの。)
クウの意識は彷徨う。
(舞闘場だけじゃない。逐鹿さんの言ってた王様のお墓もそう。霧城の地下に無限の完全食があるのもおかしい。無限って変だよ。なんだろう。もやもやするな。)
クウはあれこれとぐるぐる考え妄想して、夕刻のみんなとの話に意識が戻った。朧は空白の障壁を越えられない。だから、世界は滅ばなかった。クウには、それは間違いないように思われた。霧街の下の空白の障壁に穴が空いてしまったから、いずれ朧がここに来てしまう。だから、早く忍の隠れ家に移住しなくてはならない。これも間違いない。その通りだ。ふと、唐突にクウは気付いた。
(大地に大穴を空けたのは大渇破さまの術だし、ラスの頭部を叩き落として世界の裏側に追放したのは渦翁さんの金剛錫の一撃だった。あれ?でもこれって……。)
腹の虫が澄んだ星空に盛大に響いた。クウは自分でびっくりして、笑った。大きな声で独り言を言う。孤独になれたヒトの癖だ。
「忘れてた。ご飯食べてないんだ。」
言いながら、クウは瓦礫の頂から飛び降りて、避難所にある寝床に向かった。瓦礫の山の中にクウの姿は消えていく。食べ物と言えば、完全食しかない。クウは寝床で完全食を食べるところを想像してから、小さく、おにぎり食べたいなぁ、と呟いた。クウのその小さく幸せを望む声は、夜風に乗って……そして、霧散した。




