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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第十章 零鍵世界。
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第八話 新たな日々 8



 強光が去った後の御鏡の中には緑光を放つ古代文字が写っていた。それは拡大縮小を繰り返して流れては消えて、また現れた。暫くその舞闘にも似た瞬きを繰り返した古代文字はやがて完全に消えた。必死でその文字を追っていたミントは全ての文字が消えたところで大きく息を付いた。呼吸もできないくらい必死だったのだろう。


 「……とても珍しい結果です。」


 真面目に気をつけをしているクウの後ろでハクは胡座をかいて座っていた。ロイは腕組みをしている。


 「うん。だよね。クウが普通なわけ無いもん。ロイだって零鍵世界から消えた筈の機甲蟲モルフだし、あたしも天候を操る事ができる。ミントだって、この世界を越えて声を届けられる術を使うじゃん。なんて言うか……。」


 「すでに普通などという概念は捨ててしまって良いのかも知れない。今までもそうだったと思うが、これからはきっと加速する。何もかもが変わってしまうんだ。」


 いつも通り、ロイが真面目一辺倒の正論を吐いた。でも、それが彼女達……水紋の国とジュカの……最後の子の直感だった。当然、ミントも同意する。


 「そうですね。私達は……いえ、皆それぞれ唯一無二で当たり前など無いのかもしれません。さぁ!クウの素性ステータスについて話しましょう。彼は、"鱗属、不屈のトカゲモドキ"です。零鍵世界では初めて確認される成体クラです。なので、ひょっとしたら、私の見立て違いかも知れません。でも、私の見立てに間違いが無ければ、彼は練術使いで、極技鬼月乃焔と極術天候変異と……業のオーロウを行使できます。」


 「おーーー!クゥすっごいじゃん!!」


 ハクは目をまん丸にして無邪気に喜ぶが、ロイは疑問が勝る。


 「業?どういうことだ?オーロウの印は何だ?」


 真顔のロイにミントは気まずそうだ。余りにもミントが困り顔だったので、ロイはお姫さまに強いこと言っちゃ駄目だよと、ハクに怒られてしまう。ミントはばつが悪そうに正直を話す。


 「すみません。私も初めてです。拝殿で素性ステータスを看破できなかったのは。鬼月乃焔は極めて珍しい技ですがジュカにも使い手はいました。でも、天候変異は術と神業との境界に位置するこれ以上はない強力な術です。私は古文書でしか見たことはありません。そしてオーロウですが、正直、何であるか判りません。ただ、御鏡には、“業”と判断されました。つまり、モルフが行使する術ではなく、第壱階層の守護者が行使する術に位置づけられています。第壱階層に到達できるのはモルフではなく、歩む者(ウィウ)漂泊者ドラフだけです。ラスが倒されたのも当然かも知れません。ちょっと提案なのですが、クウは神さまやこの零鍵世界の外から来たモルフではないので、神業と呼ぶと少し語弊があります。我業がごうと呼ぶのはどうですか?クウだけの自分だけの業ですから。」


 ハクとロイはクウのその素晴らしい素性ステータスに抱き合って大喜びした。間に挟まれたクウはさして嬉しくなさそうで、それが彼ららしい奇妙な暖かさを空間に作り出していた。事実、ミントは彼らの事をうらやましく思った。そして。


 (……私は一人になってしまったんだ。)


 彼女の心に孤独が拡がった。直ぐにクウがその様子に気付き……よくわからないぴょんぴょんダンスも恥ずかしくて止めたかったので……ミントに声をかけようとしたが、彼より早くロイ……よりも早くハクが言った。


 「が!がおおおおおおおおおおっ!」


 ハクは獣化して、ミントに飛びかかり、甘噛みしたり猫的パンチをしたりした。ミントも獣化してハクに対抗する。機甲蟲のロイは勿論、鱗属のクウもその毛玉状のモルフ達の流儀が理解できず。棒立ちで彼女たちを見つめていた。二人とも暫くどたどたと暴れ回っていたが、最終的にはお互いの身体をグルーミングし始めた。


 「ま……まぁ、仲良しならそれでいいけどさ。」


 「だな。よくわからん。」


 男達は呆れて呟いたが、ミントは心底救われた気がした。逐鹿に連れられてこの水紋の国に来てから初めて……寛げた気がした。



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