第四話 新たな日々 4
――霧城が存在していたその場所は喧噪に包まれていた。ラスとの最終決戦から一月が過ぎていた。この一月で生き残ったモルフ達は一生分の涙を流した。沢山の仲間が死んでしまった。遺体が確認できた者、出来なかった者、誰だか判らない者、とにかく沢山死んでしまった。重傷を負いながらも辛うじて生き残った仲間達もいた。ポーのように再生の癒やしが間に合わず、四肢が欠損してしまったものもいた。街も城も畑も何もかもを失ってしまった。でも、得たものもあった。霧街と裏街の融合だ。その二つの集団は百年前、初めてファンブルが出現して以降、隣り合い寄り添いながらも互いを差別して暮らしてきた。それが、この大混乱の中で再び一つとなったのだ。今、彼らは、街を再興させようとお互いの区別無く、協力し助け合いながら、瓦礫を撤去し、死者を弔い、日常を再開させようとしていた。
霧街が裏街を受け入れるきっかけになったのは、この大混戦の最中の忍達の行動だった。彼らは、烏頭鬼と闘いながら、弱い者、怪我をした者を救い、彼らの隠れ家……空白に匿ったのだ。忍達が隠れ家と呼ぶその世界は彼らが空間を切り裂いて開くドアの向こうにある真っ白い空を持つ世界だった。少し変わった動植物が生息するが、それ以外は霧街と何ら変わらなかった。忍は、モルフ達を次々と隠れ家に引き込んだ。モルフを救出する過程で命を失うものも多かった。ポーもその際に腕を失ったのだ。
霧街のモルフ達はずっとファンブルを恐れていた。その原因不明の病とも取れる身体の非可逆的変化……幼生のままの姿に留まり、多くは原因不明の病も発症して、非常に短命……の原因が判らず、感染するのではないかと恐れていた。或いは、神々に見放され、呪われているのではないか、と。しかし、この絶望的な闘いの中で、彼ら裏街の住人が病を圧して、自身の命を危険にさらしながらも、霧街の住人を助けるのを見て、霧街のモルフ達はその恐怖を克服してしまった。尊敬と感謝が無知と恐怖を凌駕したのだ。皮肉で悲しい現実だが、いつだって赦すことがより大きな幸せに繋がるのだ。罪を責めても変化は訪れない。苦しんで虐げられた者達が無知で恥知らずな者達を赦すことからしか始まらないのだ。でも、それで世界は変わる。少なくとも霧街と裏街は融合した。
そして、新たな日々が始まったのだ。




