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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第九章 擬人種。
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第三十一話 輪廻転回 7



 クウの作戦はいつも同じで、これまで一度も違うパターンで舞闘したことは無かった。即ち、相手の懐に飛び込んで、非可逆的なその一点を越える瞬間にオーロウで相手の技を躱して反撃するのだ。必ずその作戦だった。ただ、オーロウに持ち込むまでに様々な策を廻らせたし、オーロウからの逆転技も細心の注意を払っていた。クウはたった一つ、オーロウしか使えなかったからこそ、それを研ぎ澄まし、いつ、どう使えば勝てるのかを熟知し、洗練させていた。今のラスに対する突撃もラスの傲りを見抜いてのことだ。


 ……今、クウはオーロウの中に居た。


 いや、外かも知れないし、同時に両方に存在していたと言っても良いかもしれない。いずれにしても、彼は今、世界と繋がっていた。氷に沈む大鯨や溶けてしまったアマト、霧街に開いた世界を貫通する大穴も空の眼(セル)流動する闇(ファゴサイト)も感じていた。それらの皮膚はクウの皮膚で、クウの皮膚はそれらの皮膚でもあった。クウは彼らの眼から世界を見ることが出来たし、逆に彼らもまた、クウの眼から霧街を見ることが出来た。突然、クウはクウ自身を見る。


 ラスの視線だ。


 クウは流出した意識を引き戻して、クウ自身に戻った。クウはクウの視線から世界を見る。虹色に渦を巻く闇の中を突き進んでいた。この虹闇の中のラスは漆黒の鍵の形をしていた。その鍵は心臓の様に脈動し、亡霊のように揺らいでいた。クウはそれをやり過ごして、ラスの背後に抜けた瞬間にオーロウを解き、反撃をするつもりだった。が。


 (……今、あれに攻撃したらどうなるんだろう?)


 唐突にクウは認識した。今、クウが見ているラスの鍵は玖鍵世界の完全鍵マスターキーであると供にラスのイドでもあるのだ。働き者のナマケモノモルフのナン先生の授業を思い出した。百年前に突然現れた幼生エイラの開闢が日輪さまの完全鍵マスターキーを盗んだ為に、日輪さまは死んだ、と。


 (じゃぁ、同じ鍵の守護者であるラスも……。)


 クウはその漆黒の脈動する鍵とすれ違うその刹那、素早く腕を伸ばし、鍵を鷲掴みに……瞬間、視点が入れ替わった。ラスとクウの視点が。ラスから見たクウは赤く燃える炎の塊だった。ラスの鍵と同じように揺らいで、脈動している。彼等は瞬時に理解した。ラスはクウが鍵を奪おうとしていることを知り、クウはラスがイドを握りつぶそうとしていることを知った。


 (う!あ!あああああああぁぁっっ!!)


 二人は叫び、しかし、互いに一歩も譲らずにお互いの核心に手を伸ばした。

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