第二十七話 輪廻転回 3
ハクが両腕をバタバタさせながら霧街の荒れ地に落ちてくるのにを見つけた、彼女の式神である百匹のオコジョは隊列を組み統率が取れた動きで、ハクの下に回り込み、クッションとなって彼女を受け止めた。ハクは、自分より遙かに小さいオコジョた受け止めてくれたことに驚き慌てて、トトの上からすばしっこく降りて、おしりを払いながら、トトに声をかけた。
「あ、ありがと。痛くなかった?」
「ええ。我々は鍛えているので痛くありません。でも、ちょっと重かったです。」
満面の笑みで報告するトトを蹴っ飛ばしてやろうかしらと一瞬思ったハクだったが、式神達の素直さを思い出して、何とか堪えた。
「まだだ。油断するな。」
ハクの側に地響きを立ててロイが着地した。白死が引き起こした粉塵も収まり、ラスの状況が目視出来た。死んでいないのは魂気ではっきりしていた。だから、ラスの姿が見えた時も特別な動揺は無かった。ロイの白死で右上半身を失っていた。不思議と血は出ていない。ロイは正直恐ろしかったが、冷静を努めてラスを睨む。
「しぶといな。」
「それはこっちの台詞だねぇ。あんなに仲良くしてやったのにひどい仕打ちじゃ無いか。今の自分があるのは誰のお陰だと思ってんの?」
一時期ラスと行動を供にしていたロイは、そのことを指摘されるのが愉快ではないし、自身の過ちについて、胸が痛んだ。この荒れ果てた霧街の現状……ラスの背後には底が見えない大穴が開いており、そこには敵味方含めて生存者が居ないことは一瞥して判断できた……に導いた原因の一旦は、ロイにあると考えていた。それも大きな部分を占めている。でも、ロイは動揺せずに冷静に返した。それが彼の役割だからだ。過ぎたことを悔やむのはまだ先だ。今は、やるべきことがあるのだ。
「今の自分があるのは……ラス。貴方のお陰でもあるし、そこに居るハクのお陰でもある。後ろの黒丸さんのお陰でもあるし……。」
ラスは、揺さぶりに動じないロイとその隙を逃さずに霹靂の練気に入るハクが気に入らなかった。ラスは苛立ち、神業八咫闇雲を放った。回避不能な密度で剣と羽刃が二人に襲いかかる。ハクは術の練気に集中しており、反応できなかった。ロイはそれを悟り、ハクを庇った。
破裂する鉄拳!
白死が使えれば良かったのだが、反射的に使うほど練度が高くなかった為、破裂する鉄剣でラスの八咫闇雲を迎え撃った。ロイの両拳から灼熱する爆発が起こり、ラスの八咫闇雲を相殺していく。ロイは破裂する鉄拳の連撃を打ち込み、閃光と熱と爆音が響き渡った。破裂する鉄拳と八咫闇雲のせめぎ合いで周囲は爆煙に包まれる。周囲が見えなくなる爆炎の中で一番先に倒れたのは黒丸だった。ミントを庇うために動けなかったのだ。そして、ロイが倒れ、ハクが倒れた。ロイの破裂する鉄拳も式神のトト達もハクを護ることが出来なかった。ラスの八咫闇雲が反撃も防御も削りきったのだ。全員が血まみれだった。




