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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第二章 夜の帳。
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第三話 遺言。




 クウ達の輪廻転回の義(リーン)の翌日、霧城きりじょうの最深部にある金剛議場に六角金剛達が集まっていた。蛙王角あおうかく角蛙の黒丸、蟲王角ちゅうおうかく一角甲虫の一文字、羊王角ようおうかく山羊の渦翁、熊王角ゆうおうかく月乃輪熊の胆月。現存する六角金剛全員が集まっていた。更には水紋の帝、大喝破の式神である小さな髭蛙も金剛議場に集合していた。彼らは式神を上座に、左右に分かれて座していた。広大な座敷の中央には三枚の金屏風が置かれていた。皆、屏風を注視していた。屏風が写し出す惨劇を。屏風は遠方の光と音を伝える。


 「遺言だ。友よ。」


 中央の金屏風に写っている年老いた巨大な虎のモルフが、掠れた声で言った。絶望に覆われた王国の王が発したその声はしかし、夜明け前の時間が止まったかのような諦観に包まれて、平穏だった。


 「逐鹿に感謝を。彼を立ち寄らせてくれた水紋の国の友情に感謝する。ありがとう。彼は娘を連れ出してくれた。それだけで私の魂は救われた。」


 左右の金屏風は地獄を写してした。右の金屏風には、雷を撒き散らす空の眼(セル)が写っていた。左の金屏風には防壁内部の人々の頭上に黒い雨が降り注ぐ所が写っていた。その雨は流動するファゴサイト。モルフ達は雨に溶かされて逃げ場を求めてしかし、逃げ切れず、絶望と激痛の中で痙攣して絶命していく。


 「ジュカは滅ぶ。これで零鍵世界には、亡霊が住まう帝都を除いて、貴国のみとなる。」


 王の背後の最大防壁の上に黒いシミが見え始めた。ファゴサイトが防壁を乗り越えようとしているのだ。空の眼(セル)はいよいよ圧縮されて、その目は極小になっている。


 「敵を取ってくれないか。我が国民の敵を。生き残って、命を謳歌してくれないか。零鍵世界を花と歌で満たしてくれないか。我々は最早、ファゴサイトにもセルにも太刀打ちは出来ない。」


 これまでに無いモルフ達の絶叫が響いた。ファゴサイトが防壁を完全に

乗り越えたのだ。雪崩れ込む黒い絶望に人々は発狂して叫んだ。王は続ける。


 「だが、我が娘には力がある。ジュカは間に合わなかったが、水紋は生きてくれ。娘の力がヒントになるだろう。どうか、生き


 空のセルが反転した。セルの中にセルの全てが吸い込まれて消えた。雲一つ無い真の青空が拡がった。地上の絶叫が吸い込まれていく。皆、美しい完全なる青空を見上げた。王も例外ではない。次瞬、爆発。直径百キロメートルの黒い爆発に王城が呑み込まれて、王の画像が消えた。議場の三枚の金屏風の画像と音は一瞬途切れ、何も伝えない。少しして、右の金屏風だけが画像の転送を再開した。爆発で吹き飛ばされたジュカの上空に直径十キロメートルを超える黒い穴が開き、全てを吸い上げていた。驚愕に言葉を奪われる六角金剛達は、最後に目撃した。崩壊した最大防壁の一部にその高さを維持している箇所があり、そこに一人のモルフが立っていた。画像が遠く、鮮明では無かったが、その痩せたモルフは両手を広げ天を仰ぎ、笑っているようにも泣いているようにも見えた。彼の胸のイドが黒く変色している。彼の周辺には黒い鳥の羽のようなものが舞っていた。最後に男が天に向かい両手を差し出した瞬間、防壁は崩れ去り、画像は途切れた。


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