第二十一話 神々の眷属《アドミニオン》 12
「ああ。君か。私を呼んだのは。」
その石の巨像は感情の抜けた声で返した。返しながらごりごりと音を立てて振り返る。石の視線の先には艶やかで美しいジャガーモルフのミントが黒丸に付き添われて霧城の瓦礫の中に立っていた。
「私達は生きています。完全世界で囁かれているような魂無き虚ろではありません。」
「成るほど。お前の意見は日輪の報告と合致する。但し、虚ろの定義については我らが決定することだ。お嬢さんの助言は不要だ。さて。」
また、岩が軋む大きな音を立てて巨像は正面に向き直る。削り崩れた岩が降り注ぐが、ラスはピクリとも動かない。目線を合わせないように俯き、ただ同意する。
「はい。現神王様。何なりと。」
ラスが相対しているのは、この十の鍵世界が連なる、天恵世界の大神の一柱である現神王だった。この天恵世界には三柱の大神が存在し、三世六界をそれぞれ任されている。過ぎた世界を司る、一切の変更を赦さない過神王。今を司る、死を赦さない現神王。未来を司り、何も護らない、未神王。彼らは純粋な絶対権力者であり、最強かつ不死の存在だった。その大神の一柱、現神王が告げる。
「お前のミッションは失敗した。事態は最悪だ。日輪は我ら世界の肉を捨てて、この地に落ちた。我ら眷属の魂を見捨てることは出来ない。判るな。日輪の無事が確認され、完全世界に引き戻すまでは、この地は永久に封鎖する。零鍵世界を滅ぼすことは日輪を殺すこと。それは、容認しない。いいな。調査は終了。立場をわきまえてここを去れ。」
一瞬、ラスのうなだれた背中の筋肉が盛り上がりを見せたように感じられたが、その返事はそれを否定した。
「はい。現神王様。仰せのままに。」




