第十八話 神々の眷属《アドミニオン》 9
「く、くは!くははははははははははっ!!ざまあないねぇ。ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーああっ!すっきりしたねぇ……く、くは。はははははは!!」
超高熱の大爆発の中にあったシキの最後を視認出来たのはラスだけであり、従って、彼の死をこの瞬間に悼む者は居なかった。街人はただ、廃墟となった霧街上空で大爆発が起こったとだけ認識していた。焦げた虚空にラスの哄笑が響き渡っていた。下半身を失い、焼け焦げて爛れ、それでもラスはせせら笑っていた。モルフ達の死を、この零鍵世界の最後を。
「さて、訳のわからない変異達も帝も居なくなり、日輪も神々の世界に帰還した。」
ラスはゆっくりと高度を下げて、地上に降りてくる。地上の惨劇を満足そうに眺める。モルフ達は切断され、潰れ、踏みにじられ、焼け焦げている。誰も彼もが魂気を失い、絶命していた。ピクリとも動かずにただ廃墟に散乱していた。彼等が僅か数十分前には生きていたとは到底信じられなかった。苦い砂塵だけが地上を流れていた。ラスは満足した。命の境界線を曖昧模糊とさせる存在はことごとく消え去り、この零鍵世界もこれから消滅する。ラスは大地を見渡し、天を仰ぎ呟く。
「――我々の、“神々の眷属の命の定義”は護られた。神々の世界と楽園の“境界線”は保たれたのだ。さぁ、さて……もう、お仕舞いかなぁ。終わりなら、朧を――。」
ラスは最初、その燃えさかる赤い世界の亀裂が何か理解できなかった。だがそれも僅か僅かの一瞬の出来事だった。
神斬!!
一文字の真技神斬の燃えさかる刃がラスの眼前にあった。一文字は隻腕でその神殺しの大剣を大上段に構えていた。ラスは理解した。高度を下げすぎたのだ。モルフ達は恐れ怯えて、隠れていた訳では無かったのだ。ただ、空を飛べ無いために参戦出来ず、歯を食いしばって機会を伺っていたのだ。ラスは高度を下げすぎたのだ。角が折れ、片腕を失った一文字はそれでも別格の魂気を纏って、その全力でラスを両断しようと神斬を振り下ろした。だが、ラスも気を取り戻し、闇雲の剣で神斬を受け止める。超硬質の刃が打ち付けられた高音が血と炎に包まれた霧街に響き渡った。
そして――神斬の刃が――闇雲の剣を――。




