第十六話 神々の眷属《アドミニオン》 7
「何だぁ?」
ラスは馬鹿みたいな感想を漏らした。それも無理は無かった。彼の頭上に失われたはずの巨大な日輪が現れていたのだ。その中心には翼を持つ炎の天使が存在した。六対十二翼の翼。天界を捨てて地上に墜ちる天使のようにシキは燃えさかる六対十二翼の翼を振り絞って、ラスを目指す。ラス以外には目視不可能な速度でシキは熾天炎化した拳にその命の全てを乗せる。漸くラスは事の重大さを知る。
「あぁ……くそ。あぁ。ああああああああっっつつっ!!!」
全力でセアカの絶対捕縛の糸を引きちぎろうとするがそれは叶わない。
(余力は残せないねぇ!)
ラスは此が全ての、最後の分岐点と判断して残った魂気をかき集め練り上げて、緑光を湛える古代文字を呼び起こした。ラスは世界の理を書き換える。書き換える範囲が大きいほど、消費する魂気も大きくなる。目の前の生意気なモルフを消去する選択肢もあったが、ラスは最後の瞬間に判断した。最小限の魂気で最大限の効果を狙った。
「――私に触れる糸の強度は零だ。」
その言葉が響いた瞬間に、あれほど強固だったセアカの糸はほぐれ途切れて、セアカは落下し始める。ラスの闇雲の剣は墜ちていくセアカを綺麗にスライスした。
セアカは最後に微笑んだ。八つの瞳は既に視力を失い、何も感知できていなかった。それでも彼は微笑んだ。親友の、戦友の気配を感じたのだ。それはまだ、諦めていない。確かな熱量が、世界を救いたいという情熱が燃えさかっていた。あの時の約束はまだ存在していて自分たちは何も変わっていない――それだけで充分だった。苦痛に満ちたこの最後の瞬間が安らぎに満ちて溢れて――セアカからすっと魂が抜けていった。ラスはそれを感じて、悦に入りながらも――魂が抜ける?無いね。あれはただの現象だ――ラスは開放された緑光の盾をシキに向ける。シキは巨大な熱気を内包した正に日輪と化していた。それは一つの世界が墜ちてくるにも等しかった。
「ラス!!これで最後だ!これが俺の全てだ!!」
シキは叫んだ。ラスも煽られて返す。
「いいねぇ!さぁ、セアカは死んだぞ!仲間はもういないよねぇ!最後の勝負といこうじゃない!!貴様の拳か!俺の盾か!さぁ!盛り上がってきたねぇ――えええええああああぁぁぁっ!」
シキの超高熱を受けて、ラスのご高説は悲鳴に変わる。




