第十四話 神々の眷属《アドミニオン》 5
「そろそろ疲れてきたよねぇ?」
緑光を放つ古代文字の盾の内側で、上半身だけのラスは薄ら笑いを浮かべる。だが、彼の周囲はセアカの糸が張り巡らされて、一ミリも動けない状態だ。崩壊して、血と泥に濡れた霧城の上空でこの零鍵世界の帰趨を決する綱引きが行われていた。
「いや、全然。ひょっとしてそっちが疲れてきたとか?何か焦ってないか?」
お互いに虚勢を張り軽口を叩く。眉間に寄せた皺、頬を流れる汗が互いの魂気の消耗度合いを雄弁に語っていた。いつ残った魂気を爆発させて、形勢を書き換えようか、その起点を探り合っていた。ラスは苛立つ。
(俺は守護者だぞ?しかも、最後の世界の鍵を持つ守護者だ。世界を救いに導く八咫烏だ。それが、何だこれは?第三階層にも達していないような未熟なモルフ相手に身動きが出来ない。結末はすぐそこまで来ている。)
それでも、彼は熟練の舞闘者で、焦りを表に出さず油断はしない。セアカが締め付けた分だけ盾を押し返して、力の均衡を維持してきっかけを待った。そして、その瞬間が来た。セアカの身体がピクリとなり、一瞬、突き刺すようにラスを威圧していた魂気がその指向性を失った。ラスはその一瞬を見逃さない。全力で古代文字の盾を押し出し、セアカの絶対捕縛の糸から逃れようとした。しかし、セアカはそれを感知して看過しない。瞬時に糸の緊迫を強めてラスを固定する――が、ラスにはそれで充分だった。僅か僅かのその間にラスは闇雲の剣を突き伸ばし、貫いた。
セアカの心臓を。




