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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第九章 擬人種。
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第六話 最強 3



 「この城に祈祷場はありませんか?」


 霧城に逃げ込んだはずのミントは叫んだ、直ぐに黒丸が応対する。


 「ジュカのミント姫か?お父上から頼まれている。姫の望みであれば霧滝に案内する。こちらに。」


 「私は、身を清めて祈ることで、声を届けることが出来るのです。聞くことが出来るのです。」


 ミントの説明を聞きながら、黒丸が最短の手順で彼女を祈祷場に案内する。それは、霧城の裏側、リツザンに続く絶壁の最下にその滝はあった。深い滝壺を持つその滝は白く細い滝が静かに落ちる聖地だった。深い滝壺は静かに揺らいでいる。ミントは迷うこと無く衣類を脱ぎ捨てて、オレンジに輝く美しい毛皮姿を晒して、滝壺に飛び込んだ。そのまま滝の直下にある丸岩に腰掛けてゼンを組んだ。術を発現させる。


 ――神意顕現マーフ


 淀みないジュカの王女の行動に黒丸は関心しながら、ジュカ王の言葉を思い出していた。ジュカ王、最後の言葉だ。


 (……遺言だ。友よ。)


 (逐鹿に感謝を。彼を立ち寄らせてくれた水紋の国の友情に感謝する。ありがとう。彼は娘を連れ出してくれた。それだけで私の魂は救われた。)


 (ジュカは滅ぶ。これで零鍵世界には、亡霊が住まう帝都を除いて、貴国のみとなる。)


 (敵を取ってくれないか。我が国民の敵を。生き残って、命を謳歌してくれないか。零鍵世界を花と歌で満たしてくれないか。我々は最早、ファゴサイトにもセルにも太刀打ちは出来ない。)


(だが、我が娘には力がある。ジュカは間に合わなかったが、水紋は生きてくれ。娘の力がヒントになるだろう。どうか、生き……。)


 そこで巨大な念鏡である金屏風は映像を伝えることを止めた。ジュカが黒嵐セルに飲み込まれたのだ。凄惨な最後だった。国中に人々の叫びが木霊しているのを聞いた。だが、ジュカ王……老虎モルフは、確かに最後に言った。我が娘には力がある、と。娘の力がヒントになるだろう、と。


 (……よくぞ、無事で。)


 まだ若いジャガーモルフのミントを見つめて黒丸は想いを馳せた。美しかったジュカに。勇ましかった友人の老虎に。


 (ミント姫。出来ることなら、その力で我らに救済を。)


 黒丸は柄にも無く、滝に打たれ祈祷を行うそのモルフに救いを求めて祈った。その瞬間に爆音が轟き、霧街は暗黒と呼ぶに相応しい闇に包まれた。


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