第六話 最強 3
「この城に祈祷場はありませんか?」
霧城に逃げ込んだはずのミントは叫んだ、直ぐに黒丸が応対する。
「ジュカのミント姫か?お父上から頼まれている。姫の望みであれば霧滝に案内する。こちらに。」
「私は、身を清めて祈ることで、声を届けることが出来るのです。聞くことが出来るのです。」
ミントの説明を聞きながら、黒丸が最短の手順で彼女を祈祷場に案内する。それは、霧城の裏側、リツザンに続く絶壁の最下にその滝はあった。深い滝壺を持つその滝は白く細い滝が静かに落ちる聖地だった。深い滝壺は静かに揺らいでいる。ミントは迷うこと無く衣類を脱ぎ捨てて、オレンジに輝く美しい毛皮姿を晒して、滝壺に飛び込んだ。そのまま滝の直下にある丸岩に腰掛けて全を組んだ。術を発現させる。
――神意顕現。
淀みないジュカの王女の行動に黒丸は関心しながら、ジュカ王の言葉を思い出していた。ジュカ王、最後の言葉だ。
(……遺言だ。友よ。)
(逐鹿に感謝を。彼を立ち寄らせてくれた水紋の国の友情に感謝する。ありがとう。彼は娘を連れ出してくれた。それだけで私の魂は救われた。)
(ジュカは滅ぶ。これで零鍵世界には、亡霊が住まう帝都を除いて、貴国のみとなる。)
(敵を取ってくれないか。我が国民の敵を。生き残って、命を謳歌してくれないか。零鍵世界を花と歌で満たしてくれないか。我々は最早、ファゴサイトにもセルにも太刀打ちは出来ない。)
(だが、我が娘には力がある。ジュカは間に合わなかったが、水紋は生きてくれ。娘の力がヒントになるだろう。どうか、生き……。)
そこで巨大な念鏡である金屏風は映像を伝えることを止めた。ジュカが黒嵐に飲み込まれたのだ。凄惨な最後だった。国中に人々の叫びが木霊しているのを聞いた。だが、ジュカ王……老虎モルフは、確かに最後に言った。我が娘には力がある、と。娘の力がヒントになるだろう、と。
(……よくぞ、無事で。)
まだ若いジャガーモルフのミントを見つめて黒丸は想いを馳せた。美しかったジュカに。勇ましかった友人の老虎に。
(ミント姫。出来ることなら、その力で我らに救済を。)
黒丸は柄にも無く、滝に打たれ祈祷を行うそのモルフに救いを求めて祈った。その瞬間に爆音が轟き、霧街は暗黒と呼ぶに相応しい闇に包まれた。




