第三話 帝 3
霧街の東に流れるジズ川は先のシロブンショウモルフのフラウの作戦で氾濫状態にあったが、大喝破の彼岸がもたらす玉塊の破壊で大穴が空き、大瀑布が出現していた。烏頭鬼軍の多くは大喝破の攻撃に巻き込まれて、壊滅状態だった。完全に別格の存在だった……が。
「どういうことだろうねぇ。そのような術は許可していないんだけどねぇ……。」
緑光に輝く古代文字の上で縦膝で胡座をかく八咫烏は呟いた。ため息交じりで眉間をもみほぐしている。大喝破の連撃で一時は追い込まれたラスだったが、間合いを確保して攻撃を躱し、今は全ての傷癒えていた。焦りも消えた。ラスは確信していた。一対一なら負ける相手ではない、と。そもそも階層が違う。霧街の支配層である老隈は第三階層。帝である大喝破は第二階層だ。守護者はその上の第一階層に位置する。これは神々が定めたもので、階層の違いは実力の違い。上の階層に登る程、階層間の力の差は広がる。文字通り格が違うのだ。滝壺の直上に浮かぶラスはのんびりと呟く。
「ほんと、この世界は変異だらけで困るねぇ。一度、浄化する必要が――あるねぇ。」
相対する大喝破は、対岸から八咫烏を睨んでいた。体高五百メートルを越える大喝破は堅い鱗と嘴、長い髪を持つ蛙の姿をしていた。大喝破は開闢の誕生に立ち会った生存する唯一のモルフで、だからこそ開闢を面白半分に逃がした八咫烏を許すつもりは無かった。それ以降にファンブルは発生し、子供は生まれなくなり、敵対種は跋扈して、世界は死に始めたのだ。近年、自身の魂力が制御できず、死を身近に感じていた帝は覚悟を決めていた。今日、ここで死のう、と。八咫烏の最後を看取れるのであれば、なにも悔いはない。大喝破は魂力を練り上げて、八咫烏にぶつける。
――極術光柱。
大喝破の頭上に光り輝くリングが現れ無数の光柱が周囲を焼き払う。光は徐々に収斂して一つとなり、八咫烏に焦点を合わせる。しかし、冷静さを取り戻したラスは素早かった。するりと光を躱し飛び上がり、その拳で大喝破の頭頂部を殴る。空振が起こる、重い一撃だった。大喝破の巨体が揺らぐ。
「もう死ねよ。」
言い放つラスは闇雲の剣を大喝破の眉間に打ち込む……が、帝は消える。
――彼岸。
ラスの背後に移動した帝は同時に玉塊を彼に打ち込んだ。必死に玉塊を躱すが、躱しきれず、ラスは右足を引きちぎられる。叫び唸り、ラスは飛び回る。
「あーあーあーあーあぁっ!!面倒くさいねぇ!どうせ死ぬんだよ!貴様等はぁ!」
苛立ちが限界に達したラスは叫けび、最大効力の神業を放った。
神業 八咫闇雲!!
ラスは細い身体から、巨大な闇雲の剣を無数に伸ばす。剣の合間は禍が埋め尽くしている。点や線ではなく、面の攻撃だった。それが霧城に向けられた。
「さぁ!どうするねぇ!帝さまぁああ?霧街を、仲間を助けられるかねぇ??」
無限に延びる闇雲の剣は大地を抉り城壁を破壊しながら、霧城に突き進んだ。粉塵が舞い上がり、モルフ達が恐怖に硬直する。一文字や黒丸でさえ、何のリアクションも取れて居なかった。
大きな悲鳴が上がった。




