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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第九章 擬人種。
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第一話 帝 1



 ――彼岸ひがん


 その声が轟くと供に、霧街は影に覆われた。これまでに感じたことの無い圧力を伴った魂力マイトを感じたラスは上空を見やる。


 「戻ったか!八咫烏!!」


 見上げるラスに声をかけるのは水紋の国の帝、大喝破だった。体長五百メートルを超える巨身が逆さに宙に浮いていた。


 「おいおいおいおい!!!」


 ラスの眼が見開かれる。ニチリンは笑う。大喝破は二人の守護者を目視して……決断した。


 「日輪様。ご容赦を。」


 「構わん。任せた。やれ。」


 鍵の守護者の了承を得た大喝破は力の方向性を絞った。彼の極術彼岸は瞬間移動を行う術だ。基本はそれだけだが、彼は体高五百メートルを超える山の様な存在で、それが突然移動を行うと元いた場所は空間に穴が開き嵐が吹き荒れて、移動した先には現れた大喝破に押しやられる大気が行き場を求めて爆発する。大喝破はその大気の行き場を制御する事が出来た。それも一点に。体高五百メートルを越える大喝破が現れたことにより行き場を失った大気は彼の魂気マイトにより、直径一ミリメートルの玉に圧縮され……落とされる。八咫烏に向かって。


 「……おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 ラスはその塵のような塊に致死的な力を感じて叫んだ。最大防御を発動させる。ラスは両手を突き出し、その先の空間に、防御の古代文字を多層に重ねてその塊を受け止めようとする。


 「だから、ゆるしてないんだよねぇ!そういうの!!!」


 勇ましいラスの叫びは届かず、巨大な緑光に輝く文字は塵のようなその粒を受け止めることが出来ずに次々と破られる。全ての文字を突き破られたラスはその玉塊を直接両腕で受け止めた。


 「なぁあああああああああああっっっ!!」


 ラスの両腕はねじれて沸騰し、皮膚が膨れ上がったが、ラスは渾身の魂力マイトを使い玉塊を投げ返した。その瞬間にラスの両腕は押しつぶされて消失した。しかし血を吐きながらラスが投げ返したそれは、上空の大喝破に向かい飛翔する。ピンチはチャンス?その玉塊の回避は不可避と思われた。が。


 ――彼岸。


 上空の大喝破は消えて彼の正面に現れる。爪が長く伸びた指を八咫烏に突き出す。ぴたりとその爪先はラスの額を捉えている。ラスの頭部より遙かに大きい爪先だった。地震の様な声が轟く。


 「移動する度に玉塊は増える。その荒技はいつまで続くのだ?」


 「おお?」


 まともな言葉を発することも出来ずにラスはその額に彼岸の玉塊が直撃した。爆発が起こり、吹き飛ばされて彼の背後にあった烏頭鬼の軍勢ごと完全な荒野に変えた。


 「……まだ死んどらんじゃろう。なぁ、儂の命は長くない。決着を付けよう。この世界を興味本位で変異シリルさせた罪は重いぞ。玖鍵の守護者よ。」


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