第四十四話 夜の半分 44
霧街のモルフ達は言葉も無く、突然現れた死に神がこの世界の守護者へと変じる様を目撃した。美しい零鍵世界の守護者ニチリンはしなやかに差し出した掌の間に小さな光の玉を出現させた。
……三祇九鼎。
爆発するようにその光玉はラスに向かい飛び立った。ラスはその巨大な両手でその豆粒程の光玉を受け止める。ラスの顔が苦痛に歪む。
大爆発。
髑髏烏の巨人は揺らぐ。周囲は高温と爆風に包まれる。景色が溶ける。
「おおおお……おお。厳しいねぇ。お手柔らかに頼むよ。センパイ。」
ラスは両手を失い、身体の前面が沸騰して泡立っていた。だがそれも瞬く間に修復されていく。
……三祇九鼎。
今度は複数の光玉がニチリンのはかない掌から放たれてラスを襲う。ラスはその巨体から想像も出来ない程の素早さで翼を広げ飛び立った。殆どの光玉はラスを見逃さず、急上昇して後を追ったが、二つだけ急旋回に間に合わず、直進して霧街正門があった場所に激突した。光玉は爆炎を上げる。大地が溶けて大穴が開いた。その場に居た烏頭鬼軍も蒸発した。ラスは急上昇を続けるが、光玉も追従する。
ニチリンが行使した神業は、守護者が自身の世界を守るためにだけ行使することを許された極限破壊の業だった。ラスは逃げることを諦めて光玉に自身の神業をぶつける。
禍!
巨大な闇羽がラスの身体から打ち出されて、次々とニチリンの光玉と玉砕していく。光玉は爆発性を持ち、何かに接触すれば必ず爆発する。全ての光玉を闇羽で打ち消したラスは上昇を止めて浮揚した。光玉の凄まじい爆発の中から、ニチリンが現れた。ラスと同じく、顕現し体長百メートルを超える女神の姿となっていた。それはまさしく燃え上がる陽の天使だった。六枚の炎の翼で力強く羽ばたき飛翔する。彼女の胸元は燃えさかる穴が脈動するように大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。腐敗して死んでいこうとする肉体を陽に借りた強大な魂気で抑えているのだ。ニチリンには時間がなかった。彼女は手にした光剣……魂凪を振るう。それは世界を切り裂く神剣だった。ラスは必死に躱す。剣筋の後には世界の傷口が発生して、三世六界の狭間が見えた。
「敵わないねぇ!!」
ラスは叫ぶと三本脚の八咫烏に変容する。夜の半分を覆うとされる巨大な烏だ。それは現れる場所によって吉凶が逆転する伝説の神鳥。ニチリンも変容する。輝く六枚の翼を持つ神鳥、炎帝だ。二柱の神鳥は大空で絡まるように飛び、激突して轟音を上げて、火花を散らした。




