第四十話 夜の半分 40
「おかわりといこうねぇ。」
その鳥の髑髏を被ったラスは、今度は両手の指を広げて、霧城城壁と百花繚乱の障壁に向けて広げた。
闇雲の剣。
十本の巨大な闇の刃が二つの大壁を貫き破壊する。ラスはそのままくるりと回転する。闇雲の剣も同様に瓦礫の塔を中心に回転し、大壁の重要な門を破壊した。
「さあ、さあ、さあ。行こうか。零鍵世界も今日限りだ。」
ラスはその台詞と供に右の人差し指で霧城正門に開いた大穴を指差す。彼の魂気が高まり何かが起ころうとした瞬間、天空から衝撃が落ちてきた。
兎牙!
クロオオウサギモルフのコクトの真技だ。彼曰く、世界の端まで飛べる……大跳躍から繰り出される鋭い蹴撃だ。上空に全く気を配っていなかったラスに直撃した。瓦礫の塔が揺らぐ。が、後頭部に兎牙が直撃したラスは、ピクリともしなかった。
「君じゃぁ、だめだねぇ。いくら何でも弱すぎる。」
軽口を叩こうとしたコクトはしかし、ラスの殺気、只の一睨みだけで吹き飛ばされてしまう。コクトは受け身を取れず、そのまま五十メートル下に叩き付けられ、苦痛の呻きを上げる。
「うっっそ。痛っ……たい。」
ぼたぼたと血を零す、コクトが立ち上がれないのを見届けたラスは満足そうに、霧城に向き直った。
「では、私が相手だ。」
ラスの眼前には神斬を構えた隻腕の王が迫っていた。コクトに気を取られた一瞬に、一文字はラスに肉薄した。神斬が振り下ろされる。
「それは不味い。」
ラスは左手を翳し一文字の剣撃を受ける。ラスの左の掌には緑光の古代文字が浮かび上がり、それが一文字の神斬を受け止めていた。一文字は舌打ちする。ラスも同じだ。ラスが受け止めたはずの一文字の斬撃は、コクトの兎牙とは違い、瓦礫の塔を真っ二つにした。塔は倒壊し、周囲は粉塵に埋もれる。一文字は着地して周囲を魂気で探った。素早く見上げる。ラスはまるで塔がそこに存在するかのようにまだ中空に浮かんでいた。ラスは一文字を指差す。
「霧街最強の舞闘者を名乗るに相応しい実力だねぇ。でも、死ね。」
ラスの指先から魂力が見えない圧力となって放たれた。一文字はその致死的な破壊力を察して、神斬で受け止め……様としたが、そのラスの巨大な力は一文字を圧倒し、大地ごと彼を吹き飛ばした。一文字はそのまま大地に埋没して……気絶した。見たことも無い一文字の姿だった。誰も気付かなかったが、それは絶望の始まりだった。




