第三十八話 夜の半分 38
ロイの白死によって、ラスは死んだ。渦翁と一文字が聞いたラスの言葉を信じるのであれば、もう彼の分身……影と彼は呼んでいた……は存在しない。つまり、目の前の荒野に拡がる雑兵を片付ければ、脅威は消滅して、戦は終わるのだ。それは念珠により、戦場の主要なメンバーに瞬時に伝えられた。霧城軍の士気が更に上がる。
百花繚乱の内側、建物が倒壊して荒廃した霧街での舞闘は終了していた。あの巨大な鬼、無常大鬼もすでに死んでいた。今は舞闘をコントロールしながら、障壁の内側に敵を取り込み、殲滅することを繰り返していた。烏頭鬼の黒い軍勢は見る見るその数を減らしていった。敵の主要な戦力は既に無い。後は計算通りに軍を動かし、結果を出すだけだ。
霧街の外に出て烏頭鬼を挟撃するリスクの高い軍勢は命知らずのコクトとドゥータが率いていた。霧街内で敵を殲滅する主力部隊はフエナとブルーネが仕切っていた。全て順調に進んでいた。一文字は念珠を使い、最前線まで指示を浸透させる。
「夕刻までには決着させるぞ。」
勿論、この戦の終わりは、烏頭鬼の全滅か霧街の逃亡しかない。それは夕刻までに決するものではない。だが、その方向性は決められるかも知れない。皆、一文字のその意気込みを感じた。可能性を見たのだ。周囲の兵士達も念珠で繋がる兵士達も、その言葉を信じ返事をする。短く、切れの良い返事だ。そして、この戦は、夕刻までに決着する。
だが、それは思いも拠らない形での決着だった。




