第三十四話 夜の半分 34
歓声が上がった。最早老いぼれたと思われた隻腕の一文字が異形最強の舞闘者、夏至夜風を倒したのだ。籠城戦を決め込んでいた霧城軍も士気が膨らみ跳ね上がって、我先にと城壁を越えてくる。霧城周辺の烏頭鬼や異形と衝動的な戦闘が開始される。指揮系統は焦り、味方を制御しようとするが、絶望を否定しようとする生への渇望は本能に流されて小規模で大勢に影響を与えない……でも自身の命をかけた……闘いに流される。一文字が場を治めようと何かを叫ぶ前に地響きがモルフ達の気を引いて興奮を静めた。口々に何かを叫んで遠くを指さす。霧街外壁の内側で地響きが轟いて粉塵が上がり、何かが大地からせり上がった。樹木や草花、棘のあるもの、蔦絡むもの。様々な植物が旺盛な生命力で繁茂し、巨大な戦壁を象った。
「何だ?誰の術だ。植物を操る術は残っていない筈だぞ。」
霧城の金剛議場に一人残っていた渦翁が思わず呟いた。
「そうでも無いわ。」
背後からの声に渦翁は硬直する。
「イソール!!どうやってここに入った?あれは何だ?ファンブルの力か?いや……。」
渦翁は、本当に大切なことを思い出し、目の前の事象から意識を遠ざけた。
「いや、話してくれ。あの時見た子供達は何だ?お前達はどこに隠れていた?」




