第三十二話 夜の半分 32
夏至夜風の倒神の宝剣、曙光と一文字の神斬が激突した。何十回目だろうか?何百回目だろうか?ともあれ二人の限界の技が激突して、そのマイトが周囲の風景をなぎ倒す。長身の彼ら二人を大地に刻まれた無数の底が見えない亀裂が、取り囲んでいた。霧街のモルフ達も烏頭鬼も異形でさえも二人の王には近づこうとしなかった。巻き込まれれば死ぬ。誰も近づけなかった。癒やしを行えば逆転出来ることを理解している、八掌達でさえも。だが、それでも誰も近づけなかった。一文字は笑う。
「夏至夜風。強いな。」
そのまま一文字は両膝を着いた。必死に維持していた神斬り《カムタチ》も消える。一文字のマイトが尽きかけているのだ。それはすなわち彼の死が近いことを物語る。同じく、両膝を着いている夏至夜風はしかし、曙光を杖に立ち上がる。がらがらとすり切れた声で叫ぶ。
「モルフの舞闘王、一文字!見事だった。楽しませて貰った。しかし、それがモルフの限界だ。枠の中に生きる貴様達の限界だ。舞闘限界。まさしくそうだ。我らとは違う。我らは歪みの中に生まれ、狂気が枠を越えたのだ。舞闘限界も殺しのルールも適用されない。ただ、本能だけが存在する……さぁ。決着を付けよう。」
夏至夜風はしっかりと姿勢を正し、正面に長剣曙光を構える。逆さの顔の中で縦に並んだ三眼が光る。
「お別れだ、モルフの舞闘王よ。次に会う時は、枠を越えた場所で合おうぞ。」
夏至夜風は、夜と朝を別つ神剣曙光を大上段に構えた。




