第三十一話 夜の半分 31
霧城最上階で戦場を掻き回していたラスはもう一人のラスと供に死んだ。このラスの死が霧城正門の混戦に拍車を駆けた。ガリオンの無限幻影の影響を受けていない烏頭鬼達が指揮系統を失ったため、勝手に霧城を目指して進軍を始めたのだ。統率が取れていない烏頭鬼軍は籠城する霧城軍に良いようにあしらわれていたが、その数と圧力は凄まじく、霧城軍は完全に敵を追い払うことが出来なかった。彼らには、舞闘制限があったし、守るべきものもあった。それでもモルフ達は必死に応戦していた。その攻城戦の中、霧城軍大将一文字と異形の王、夏至夜風の一騎打ちは続いていた。圧倒的な舞闘力で圧していた一文字も舞闘限界が訪れ、舞闘は拮抗していた。時折、気狂いの異形が二人の闘いに割って入り、彼らの魂力に押しつぶされる以外は、睨み合いお互いの魂力をぶつけ合う闘いになっていた。霧城正大門の決戦は混迷を極めていたが、いよいよその狂気と熱気は増して、闘いが佳境を迎えていた。そして、まだ正大門に集結している霧城軍は誰も気付いて居ないが、烏頭鬼軍は戦況を一気に変える程の戦力を霧城背後に集結させていた……が。
「そう言う訳にはいかない。霧街に義理は無いが、貴様等にこの世界を自由にさせるつもりも無い。」
霧城の最上階の上にあるリツザンに続く広場で、黒衣を纏った黒ずくめの男は烏頭鬼の軍勢を前に告げた。彼の周囲では何もない空間に、風景を切り取るようにドアが開き、中から次々とお揃いの黒染めの和装を身に纏った舞闘者達が現れていた。
「ここは通さない。この零鍵世界に住む者としての責任だ。この死にかけた美しい世界を貴様等、不明の者達の自由にはさせない。」
完全黒化した忍の総代、黒檀のシキは宣言した。
「全員、空白から出たか?」
「問題ないわ。私は正大門の方にまわるわ。」
年老いた白檀のイソールは告げて、風景を切り取るドアを閉じた。ドアが閉じられると、そこには何も残らなかった。奇襲部隊の隊長らしき烏頭鬼が、黒檀を睨む。異様に細長い眼と嘴を持つ長身の烏頭鬼だ。
「……烏頭鬼は烏合の衆だ。間違いない。だが、中に本物が混ざっている。ラス様や俺、みたいな。」
その隊長はぶっちゃけた。シキは取り合わない。その烏頭鬼は硬質の嘴を歪めて笑う。余裕たっぷりに息を吸い込んでからシキに飛びかかる。シキは全く反応を示さない。それを無力と受け取った烏頭鬼は無防備にもシキに襲いかかるが、パーロッサが面倒くさそうに刀を振るう。
「決着は早いほうがいいと思うが?」
「だな。」
パーロッサとシキの会話の合間に烏頭鬼の首が飛び、闇色の血が吹き出して、転がった。一番気の短い鉄刀木のヒハクが叫ぶ。
「さっさといくぞおおおお!!」
忍達は鬨の声を上げる。




