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第二十六話 夜の半分 26
「何だアイツ。全然、強いねぇ。とっくに不抜けたと思ってたんだけどねぇ。」
霧城最上階の露天風呂から一人、ラスは戦場を見下ろしていた。ラスの予定では、異形の王の登場で霧城軍は壊滅し、その後、自身の烏頭鬼と異形の殺し合いを観覧する筈だった。
「まぁ、番狂わせの方が見ていて楽しいし。」
ラスは優雅な指を何もない空間に踊らせた。緑に光る古い神々の文字が揺らいで結実する。露天風呂に浸かるラスの周囲に足の長いテーブルが現れる。その上には色とりどりのフルーツや発泡性ワインが並べられていた。湯煙が揺らいで辺りを包み、それが去った時、ラスは湯船の中の設えられた優雅で背もたれの長い椅子にどっしりと腰掛けて、フルーツを味わっていた。
「あぁ。やっぱ旨いねぇ。ヒトの食いもんは。異形どもの食いもんは生臭くてどーも飽きちゃうんだよねぇ。」
がぶりとワインを飲み干すと、その味わいの深さに彼は上機嫌になる。ふと思いついて、ラスは予定を繰り上げることにした。長く美しい腕を真っ直ぐ天に伸ばした。大きく指を鳴らす。
「さぁ、始めろ。」




