第二十四話 夜の半分 24
青い空の下で、グワイガは大の字に倒れ眼を閉じていた。だが、それでも世界の輝きは皮膚で感じていたし、迸るような多様性の美しさを疑うことは無かった。ここで自身の命は失われるかも知れないが、この零鍵世界の存続を賭けた多様性のうねりの中を生きたことを欠片ほども悔いてはいなかった。今、狂気のオクトーの触手が振り下ろされていた。致死的な圧力がグワイガを潰そうとしていた。
どしり。
重い衝撃がグワイガを包み彼は永遠にその瞳を閉じる……筈だった。が、
「夏至夜風よ。理解しているのか?結局の所、我々は相容れない。だが、不可侵を信条にお互いを許容してきた。今、この時限りで全ての許容を拒絶することでいいのか、狭間の王よ。」
グワイガは薄れゆく意識の中で、輝く霧街のリーダーを見た。
一文字さん……。
見上げた先には見慣れた一文字は無く、市松模様の隈取りを浮かべた王者としての一文字がいた。角は折れ、右腕は失われていたが、紛う事なき王者がそこにいた。何もかもを押しつぶしてきた狂気のオクトーの巨大な触手を軽く片手で受け止めていた。一文字の視線はオクトーに無く、遙かの夏至夜風を差している。
「舞闘は好きか?霧街の王者よ。」
遠くで囁く夏至夜風の言葉はしかし、ずしりと臓腑に響いた。それを受けた一文字は軽く笑った。その笑みの中に拒絶の回答を見いだした夏至夜風は渾身の魂気を込めた悪気を一文字に打ち付ける。触れれば体中が腐り死に到る魂気だ。一文字はオクトーの触手を握りしめた指先を更に絞った。指はオクトーにめり込んで、その狂気の体現者は怒りの叫びを上げる。が、一文字は意に介さず、オクトーを悪気に向かって投げ飛ばした。両者はぶつかり破裂する。空振が起こり、全てが相殺された。ついに、霧街の舞闘は兵士達からその階層を上げて、王者達の舞闘へと移行する。
「やるか、夏至夜風。最初から全力で来い。周りの木偶の坊は寝かせておけ。」




