第二十三話 夜の半分 23
真術 屯!!
サカゲの真術により陽炎の狼の群が現れる。それは踊り波打ち鳥貪を飲み込む。普段の鳥貪であれば物の数では無いが、半身を失っている今は、致命的だった。だが、それはサカゲにとっても致命的な術だった。彼は倒れる。最後のマイトの一滴を使い切ったのだ。倒れ込み、意識を失うサカゲを見て、鳥貪は事態の深刻さを悟る。死を駆けて最後の術を行使したということは、つまり、サカゲはこの揺らめく狼の亡霊達が敵を……自分を……殺すことを確信しているのだ。
うおおおおおおおおおおおぅっ!!
鳥貪は、自身でも始めて聞く狂った雄叫びを、歪んだ嘴から上げた。必死で首切り鎌を振るう。だが、
(……なるほど。確かにそうだ。この陽炎狼は今の自分より強い――私は死ぬ。)
鳥貪は悟った。そして笑う。
「天晴れ!」
その瞬間、鳥貪はサカゲの分身達に首を咬み千切られて落ちる。しかし、その命は終わらない。サカゲの狼たちは鳥貪の肉を貪りながらも消滅していく。それはサカゲの命の終わりを意味していた。
(最後の勝負だな、狼!私が食べ尽くされるのが早いか、貴様が死に術が解けるのが早いか!!)
狂気を呼ぶ激痛の中で声も出せない鳥貪は叫んでいた。サカゲの狼たちはみるみるその数を減らす。そして、陽炎の狼が最後の一匹になった時、サカゲの側にビャクヤが落ちてきた。しなやかで美しい百戦錬磨の彼女にしては、無様な登場だったが、彼女も限界が来ていたのだ。血を吐く。しかし、彼女もまた最後の力を振り絞って、彼女のゴールに駆け込んだのだ。
下術 治癒!
それは僅かばかりの魂気を回復させる、弱い術だった。しかし、その術で最後の一瞬、サカゲの命は延びて、鳥貪は喰らい尽くされて絶命した。サカゲは僅かばかりその目を開き、彼の耳が僅かばかりの声を捉える。
「サカゲくん。がんばれ。」
ビャクヤは顔面から血で汚れた大地に倒れ込み、豚癡は叫んで突進してくる。最後の力を使い切ったビャクヤも微かに意識が戻ったサカゲも自身のリーダーでもある鳥貪の死体の残滓も気に留めず、何もかもミンチに変えようと、豚癡は大鉈を振り下ろす。巨大な刃が無力な彼らをゾル状の何かに変換しようとしたその瞬間に、彼は大跳躍から帰還した。
兎牙!!
コクトは豚癡の頭部を貫いて、それを生肉の塊に変えた。着地してさらさらと語る。
「ちょっと跳んだだけで、わすれちゃうんだもんな。めっちゃ記憶力が悪くて助かったよ。」
クロオオウサギモルフのコクトはへらへら呟きながら、辛うじて息をしているサカゲと息をしていないかも知れないビャクヤを抱えて大跳躍した。その瞬間に霧城東門の戦は終結した。敵味方全ての舞闘者が戦場を離れたのだ。そして、コクトの強力な跳躍の中で意識を失いつつあった、サカゲは微かに想う。
(……グワイガ。友よ。俺はやったぞ。そっちはどうよ?)




