第二十二話 夜の半分 22
舞闘限界を過ぎたサカゲは月下狂乱が解けていた。血だらけだったが、眼光は鋭いままだ。異形の鳥貪はサカゲに半身を引き裂かれていたが、彼もまた眼光鋭い。鳥貪の背後では蛇瞑が絶命して横たわっていた。豚癡は仲間の死体を踏み潰すことも気に留めず素早く飛び回るビャクヤを追いまわし、致死の大鉈を振るう。外見上は大きな傷を負っていないビャクヤだったが、豚癡の毒息を僅かずつ吸い込み続けたため、肺が爛れて、吐血していた。彼女もまた、必死で精神を保ち舞闘していた。サカゲもビャクヤも舞闘力では渇望を上回っていたが、舞闘限界が訪れたため、優劣が逆転していた。二人は徐々に動きが悪くなり、何の練術も行使出来ない状態になっていた。一方で異形には舞闘限界はない。舞闘限界は神々がモルフ達が争いに没頭しないように設けた制限なのだ。だから神を信じない異形や烏頭鬼には存在しないのだ。舞闘限界はモルフの大きな枷であるとともに神々に寵愛されている証でもあるのだ――と霧街では教えている。サカゲは半分信じて、半分信じていない。直感としてこの説明が飲み込めないのだ。腹落ちしない。ともあれ、それが神々の寵愛の証であるかどうかは別として、彼らはその舞闘限界によって窮地に追い込まれていた。




