第二十一話 夜の半分 21
真技、十爪!!
グワイガの強力な足技が空蝉の円月刀を打ち砕き、そのまま空蝉を十字に切り裂いた。周囲に居た烏頭鬼達をも巻き込んで全て切り裂いた。血飛沫が上がり、空蝉は激痛の中で死んだ。だが、それでも満足そうだった。結果は死だが、彼は彼の舞闘を闘い切ったのだ。グワイガは血を吐き膝を着く。切断された左腕を庇う。最後の気力を振り絞り立ち上がって叫ぶ。
「今だ!下がれぇっ!!城門内に下がれぇっ!!」
グワイガは空蝉との闘いで、この霧城軍の殿の殿になっていた。今のジュッソウで、遂に両軍を引き剥がすことに成功したのだ。霧城周囲の大堀に駆けられた橋で落とされていないのは正大門と西門だけとなっていた。それ以外は霧城を守るため、全て落としてしまった。今、十爪の長、グワイガは霧城正門の橋を背負い、気迫だけでそこにいた。烏頭鬼達はグワイガの魂力に押されて、それ以上踏み込めずに居た。グワイガは前方に注意しながら、ゆっくりと後ずさった。烏頭鬼達は動かない。グワイガは後退する。正門は閉ざされて、脇にある通行口のみ開かれた状態となっている。城壁外に居るのはグワイガだけだ。痛みと失血で気を失いそうになりながらも、グワイガは正大門大橋の中央部まで来た。後は駆け戻れば、城内だ。
(これで一旦、区切りだ。舞闘限界を解除して仕切り直しだ。危なかったが、乗り切った。)
素早く振り返り駆け出そうとしたグワイガは、大堀から飛び出した皮膚を持たない太い触手に跳ね飛ばされた。グワイガは荒れた戦場を転がった。霧城正門は数メートル程、遠ざかった。僅か数メートル。だが、その距離は今のグワイガにとっては致命的な距離だった。大堀から現れたのは狂気のオクトー。体中を内蔵のような触手で覆われている。最早、元々彼の持ち物だった象の鼻はどれだか判らない状態だ。オクトーは殺しに溺れて既に言葉さえも失っている。
(そうだ。これが平和な平和な霧街の正体だ。)
血を吐きながらグワイガはオクトーと対峙しようとして、身体が動かないことに気がついた。舞闘限界は過ぎて、魂力を使い果たしたのだ。指の一本さえも動かせない彼は、死を悟った。オクトーは大堀からその醜い身体を引き摺り上げて、べしゃべしゃとグワイガに近づく。オクトーは不潔な触手を大きく振り上げた。グワイガの周囲が暗くなる。
「そうか。」
グワイガは自身の限界を理解した。これ以上は何もない。そう、死、以外は。無駄に空が青いことに気付き、グワイガは微笑んだ。
(ここまでだ。残念だが仕方がない……サカゲ、そっちはうまくやったか?)
グワイガは最後に長い付き合いの戦友のことを思い浮かべた。そして、あいつならきっともっとうまくやっているだろうと想い、目を閉じた。




