第十九話 夜の半分 19
上術 龍炎!!
カメレオンモルフのガリオンは龍の息を吐いた。細い身体に似合わない大きな炎だ。炎は完全に異形の空蝉を捕らえて包み込んだ。ガリオンは油断せずに間合いを確保している。
(……弱いですね。いえ、私の術を躱さなかった?)
一瞬の攻防の帰結に納得出来なかったガリオンは燃え上がる空蝉を凝視した。空蝉の魂気は強大でこの程度の攻撃をまともに受けるとは到底、考えられなかったのだ。しかし、ガリオンは、直ぐに状況を理解した。燃え上がる空蝉が襲いかかってきたのだ。鋭い円月刀の太刀筋にガリオンは追い込まれる。
「すまない。先に言っておくべきだった。私を殺したいのであれば骨を砕け。火や毒や細々とした術は無効なのだ。何しろダメージを受ける肉が無いのだ。」
「ご丁寧にどうもっ!!!」
無駄の無い踏み込みから繰り出される円月刀の攻撃を辛うじて凌ぎ、ガリオンは双槍を突き出す。しかし、骨だけの相手に突き刺す武器であるスピアーは分が悪かった。空蝉は首の皮一枚……そのような物は彼には無いが……を残し、全て躱した。骨の一本一本がゆるりゆらりとスピアーを躱す。空蝉は虚ろの眼窩をつまらなさそうに曇らせた。
「相性もあるだろうが、未熟すぎる。戦場に出るべきでは無かったな。」
「ごもっとも。」
ガリオンは返しながら覚悟した。こちらの攻撃は当たらない。であれば、敵の攻撃を回避する事に集中すべきだ。敵の攻撃を躱しきり、隙を見て逃げるしか生き残る方法は無い。ガリオンは双槍で身体を庇い、間合いを取る。だが、空蝉は一瞬で間合いを詰める。ガリオンの槍を躱して、額が接するまでに踏み込んだ。ガリオンは理解した。空蝉の言うとおり、自分は八掌であり、戦場に出るべきでは無かったのだと。空蝉はひらりと円月刀を振るい、ガリオンの首を削ぎ落とせなかった。円月刀は大長尺の薙刀に阻まれ、はじき返された。
「こいつは、治癒者だ。舞闘者ではない。すまなかったな。退屈だっただろう。」
薙刀をゆるりと構えて、ダチョウモルフのグワイガは言った。空蝉の双眸が昏く輝く。目の前に居るのは破格の舞闘者だ。
「貴様等も舞闘限界が無いクチか?ま、それでも勝つのは我々だ。」
両者は同時に踏み込み、その強大な魂力を激突させた。




