第十七話 夜の半分 17
閉ざされていく霧城東門の隙間から飛び出した灰色の突風は大きく吠えて、叫んだ。
真技 月下狂乱!!
この霧街の戦で命を落とした六角金剛の胆月が最も得意とした技だった。彼を慕う舞闘者達は彼に憧れ、彼の術を模倣した。今、漸く深い牢獄から帰還し舞闘に合流したウルフモルフのサカゲもその一人だった。完全獣化状態で駆け続けたサカゲは、月下狂乱で巨大な人狼となる。全身を光と闇の隈取りが覆いその体高は蛇瞑と豚癡を越えた。サカゲの魂力は彼の身体とともに膨れ上がる。サカゲは突進しながら、魂力を乗せた咆哮を上げる。蛇瞑と豚癡はその巨体が浮かび上がるほどの衝撃を受けて、僅かに後ずさる。しかし、鳥貪はサカゲの咆哮を受けきり、笑った。
「いいね。充分な魂力だ。だが、その巨体で私の速度についてこられるのか?」
言い放った鳥貪は目で追うことすら困難な速度でサカゲに突進した。飛び上がり、両手に構えた首切り鎌を振るってサカゲの首を刈ろうとする。しかし、
真技 狼炎!!
サカゲは巨大な炎の塊を吐いた。至近距離で吐き出された巨大な炎を回避する余地はなく、だが、鳥貪は素早く反応し、吐き出された炎を切断する。鳥貪の魂気を纏った首切り鎌は素晴らしい切れ味で狼炎を切断した。次瞬、大爆発が起こった。鳥貪は爆発に吹き飛ばされて、大地に叩き付けられる。サカゲはそのまま鳥貪とすれ違った後、大地を滑るように踏みしめて振り返る。サカゲは笑う。
「俺の炎は爆発する。触れない方がいいぜ。」
その背後から蛇瞑と豚癡がサカゲを挟み撃ちにしようと襲いかかる。
「やめろ!それは私の獲物だ。」
鳥貪は鋭い魂気を込めた声で二人に命令した。当然、彼らに異存は無く、舞闘体勢を解いた。そのまま再び霧城東門に向かい歩き始める。鳥貪はゆっくりと爆炎の中から立ち上がり、狂った双眸をサカゲに向けた。多少の裂傷や熱傷を負ってはいたが、鳥貪の魂気が狼炎を防いだことは明白だった。致命傷ではない。サカゲは一層、隈取りを濃く輝かせた。
「俺は胆月さんの遣り残した舞闘を闘いきるし、セイテンの敵も取る。貴様等、異形の都合を聞く気は無い。覚悟だけ持って掛かってこい。」
サカゲは霧街東大門を壊滅させた渇望と対峙して、一切怯むところは無かった。胆月譲りの気迫で鳥貪に挑む。鳥貪もサカゲの魂力の質と量に満足して笑う。鳥貪奇声を発し、サカゲは咆哮した。




