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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第八章 夜の半分。
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第十五話 夜の半分 15



 異形の主、夏至夜風ゲシヨカゼ、死を歌う無常大鬼、狂気のオクトー、腐敗の空蝉が現れて、混乱の極致に陥った正門と同時にもう一つの戦端である東門にも混乱が訪れていた。


 「我らは渇望タンハー異形リジェクの三毒。これから霧街に帰還する。モルフは全員、喰らう。」


 東門に展開する霧城軍に恐怖が走った。霧城の舞闘者達は当然、言葉だけの脅しに動じる者は居なかった。彼らが恐怖したのはその魂気マイトと東門をただの三体で落とした破格の実力だった。東門で活動していた烏頭鬼達は、既に全て正門に移動していた。霧城の皆殺しを大声で宣言した鳥貪ラーガは両手に構えた首切り鎌を振るって血糊を落とした。巨大な目と歪んだ短い嘴の鳥貪ラーガ左右の目を別々に動かしながら笑っていた。その後ろには巨大な蛇瞑ドーサ豚癡モーハがゆっくりと歩を進めていた。モルフの血に溺れ狂ってしまい、清浄なモルフのように人化と獣化を操ることは出来なくなっていた。半人半獣、それ以外の状態モードは失われ、内面の狂気を体現するばかりになっていた。蛇瞑ドーサは蛇の身体にヒトの頭部、豚癡モーハは人食い豚の身体にヒトの手足の姿だった。三人の渇望タンハーは同時に吠える。咆哮は霧城城壁を揺らし、霧城軍を圧倒した。


 「一旦下がれっ!俺が時間を稼ぐ。」


 四牙のセイテンは叫んだ。彼も完全舞闘出来る時間は過ぎてしまい、今はその実力の半分しか出せない状態だった。しかし、目の前の渇望タンハーは強力で、個体力の無い舞闘者では勝目は無かった。少しでも多くの仲間を撤退させる為に死を覚悟して斉天セイテンは叫んだ。


 (どれだけの舞闘力が出せるか判らないが、やるしか無い。)


 斉天は覚悟を決めて術を行使する。


 真技、月下狂乱キーン!!


 今は無き、胆月が得意とした技だ。彼を慕うモルフ達もまたこの術を好んで使っていた。斉天セイテンは舞闘力を使い果たした状態で月下狂乱キーンを発動させて、マイトが枯渇して命を失った胆月に想いを馳せた。


 (俺も覚悟は出来ていますよ、胆月さん。)


 そう心で呟いたのを最後に、斉天セイテンの理性は闇に落ちる。残るのは単純で純粋な狂乱。斉天の身体は十倍に膨れ上がり彼の魂気マイトが殺傷力を伴って発散される。渇望タンハーに覆い被さるような巨大猿となった斉天は襲いかかる。手始めに鳥貪ラーガに拳を打ち下ろす。


 「駄目ですね。」


 鳥貪ラーガは片眉をつり上げた。それだけで斉天セイテンの渾身の拳を防いだ。厚い魂気マイトの壁が月下狂乱キーンの闘気を防いだのだ。その一瞬で斉天は絶望した。今の一撃は確かに彼の全力だった。それを魂気マイトの圧だけで防いだのだ。しかし、斉天の目的はもとより、仲間を逃がすことだけに設定されていた。全ては覚悟の上だ。斉天は叫び、拳を連打する。その一つとして鳥貪ラーガに達することは無かった。鳥貪ラーガは瞬きさえせずに斉天を見つめる。十秒が過ぎ、二十秒が過ぎて一分が経とうとする頃、斉天の月下狂乱は解けて、魂気マイトが枯渇した斉天セイテンは倒れ込み。気絶した。鳥貪ラーガは斉天の決死の舞闘も存在しなかったかのように霧城に向かい進む。斉天に止めすら刺さなかった。後に続く蛇瞑ドーサ豚癡モーハも彼を踏み潰すさずにそっと除けて歩いた。だが、それでも魂気マイトを使い果たし枯渇させてしまった斉天セイテンは助からず――その命を終えた。



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