第八話 夜の半分 8
「ラス!どこだ?敵が散開を始めた。恐らく霧街外壁の何カ所かを打ち破る作戦だ。城壁を破壊する間の犠牲者より、このまま戦う場合の犠牲者の方が多いと判断した筈だ!今しか無い!ここで戦況を確定させたい!援軍を頼む!」
一文字のハキハキとした声が、念珠によりラスに届けられた。だが返事は一文字の依頼とは全く関係の無い言葉だった。霧城最上階の露天風呂に浸かるラスは上機嫌で叫んだ。
「さぁさぁ、もっと派手に行こうぜぇ!」
受けた一文字は無い眉を寄せる。不機嫌そうに何かを言い返そうとした一文字に渦翁が告げる。
「見ろ!闇穴だ!!」
渦翁が指さす先、霧街正門の上空に見覚えのある、黒い穴が発生した。一切の光を反射しないその闇は間違いなく闇穴だった。戦場直上に現れた烏頭鬼の供給源に渦翁は絶望したが、その穴からは烏頭鬼は現れなかった。現れたのは、モルフだった。ラスに心酔し、彼のために行動する信者のモルフ達だった。彼らはばらばらと闇穴からあふれ出て、烏頭鬼達を頭上から襲った。一気に戦況が傾く。渦翁は混乱した。現れたのは闇穴でそこから友軍が出現した。では、友軍の闇穴を操っているのは誰だ?そして敵軍の闇穴を操っているのは?これは恐らくラスの仕業だが、またしても“何故”が見えない。どういう意図があって、烏頭鬼軍にも霧城軍にも協力するのか、それがラスにとってなんのメリットがあるのか?渦翁には想像さえ出来なかった。そして、モルフ達に続いて闇穴から出てきたのは異形だった。ラスが水紋の国辺境で見つけて説得して連れ帰った最新の戦力だ。それは排除された者、手に負えない気狂い達。しかし、彼らをラスは霧街の味方に付けて、この戦に参戦させたのだ。どの様に彼らの心を掌握したのか渦翁には想像も付かなかったが、とにかく彼らは、霧街に付いた。これで一気に戦は終わる。この長かった烏頭鬼との戦いも終わるのだ。ラスの真意は別として――が。続いた光景を目の当たりにして、渦翁は理解した。
(考えても無駄なのだ、ラスの目的など……。)
異形は烏頭鬼群に襲いかかると供に、霧城軍にも攻撃を仕掛けた。戦場は一気に混沌の度合いを増した。




