第七話 夜の半分 7
「まずいな。烏頭鬼達が散開し始めた。」
渦翁は、開戦四日目の正午に霧城中段から戦局を確認して、呟いた。霧城軍と烏頭鬼軍は開戦から一度も休むこと無く、戦い続けていた。舞闘者達が烏頭鬼を霧街外壁まで押し返したところで舞闘時間が切れて彼らは撤退する。それと同時に新しい舞闘者達が霧城から攻め上がり、霧街で戦闘の続きを行う。彼らもまた、霧街外壁まで敵を押し返したところで時間切れになり、次の舞闘者達と交代する。それを延々と繰り返していた。そうしながら、霧城軍は烏頭鬼群を漸減させていた。これは霧城の戦術だった。敵の全てを霧街内に入れてしまっては霧城を全方位から攻め込まれるので、それは避けたい。が、霧街外壁を防衛戦として街の外と中での戦を行うには霧城軍の数が不足する。その外なら尚更だ。そこで、敢えて霧街の正門と東門を解放し、そこに敵を誘導することで戦闘を二カ所に集中させつつ、門を通すことで敵数に制限をかけていた。優勢劣勢を繰り返しながら戦いを継続するため、烏頭鬼達は自軍が優勢に感じることすらあった。烏頭鬼軍はこれが霧街の戦術だとは看破できなかった……これまでは。
「全体を俯瞰しているだけではこちらが交代を繰り返していることは気づけない筈なのだが……向こうには優秀な指揮官が居るのか、前線の洞察力が鋭いのか……。」
同じく霧城の中段から戦況を確認する一文字は呟いた。渦翁が返す。
「或いは――こちらの情報が漏れているか、だ。」
一文字は無い眉をつり上げた。確かにそうだ。例えば、ラスが敵である場合、全てはお見通し、ということだ。渦翁は続ける。
「さて……次の段階に進むか。いよいよ、ラスの立場がはっきりすることになるな。」
いや、これまで通りの気狂いの対応を続ける可能性もあるぞ?と一文字は想い、しかし、言葉には出さなかった。渦翁の横顔が言葉にしなかった一文字の考えを肯定していたからだ。
そして、この日に全ては起こり、戦は決する。残り僅か数時間の出来事だ。




