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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第八章 夜の半分。
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第五話 夜の半分 5


 その直前。


 破裂する鉄拳(ドーバーガン)!!!


 爆音と供に地下廊下の天井が崩壊して高温高圧がラスを押しつぶした。ラスに吹き飛ばされて廊下に倒れていたハクは顔を上げる。


 「ロイ!」


 完全武装のロイが牢獄廊下の天井を打ち破って落ちてきた。不意打ちを食らったラスの金剛掌にも耐えうる肉体は穴だらけのボロボロになった。血を吹き出しながら倒れ込む。普通のモルフであればそのまま絶命しただろう。しかし、ラスは違った。命を失うような激痛の中にあっても、冷静に戦い続ける。千切れかけた腕をぶらりと垂らして立ち上がる。


 「ちっ。うっざいねぇ。お前から先に死……。」


 ラスの言葉が終わる前に、地下廊下は純白の光に包まれた。ロイの白死フラッシュバグだ。跫音強光の直撃を喰らったラスはしかし、失神することは無くその衝撃を耐えきった。が……初めてラスは驚きの顔になり、そして……砂になり消えた。


 (なるほど。術か……。)


 ラスの呟きの中にロイは、今後のラスとの戦いに勝つ為の重要な発見をした。一瞬で様々な思考が現れて彼の魂の内を駆け回った。深く思考に沈み現実と隔絶するロイに声が掛かった。


 「ロイ。」


 ロイはゆっくりと巨大な身体を引き起こし、消滅したラスから視線を外してハクを見やる。ロイの大切な幼なじみだ。以前は最後の子という枠で括られた同士でもあった。暫くぶりでみるハクは汚物に塗れて悪臭を放っていたが、それでもまぶしいくらいに美しかった。ロイは渦翁から一切の役職を与えられておらず、霧街の決戦に参加していなかった。ロイにとってもそれは好都合だった。ロイが、この重要な戦から距離を置くことを良しとしいていたのは自由が欲しかったからだ。投獄後、どこかに連れ去られた彼女を……目の前にいる美しい彼女を……助け出し、匿うために戦に参加していないのだ。それはつまり、ロイが霧街よりハクを選んだことを意味していた。


 (俺は霧街の施政者になる資格はない。)


 その通りだった。ロイが生きる世界の輝かしく美しい部分……日の光に包まれた日中……の半分はハクで埋め尽くされていた。残りの半分が霧街やこの世界の帰趨だった。そして、彼の人生の残酷で辛い部分……闇に沈む、夜……の半分はラスが居座り、残りの半分はやはりハクだった。彼は、ハクの気持ちが自分に無いことは充分に理解していた。それでも、ロイの気持ちはハクに向けられていた。辛く想うこともあったが、彼は納得して、受け入れていた。でも、それでも彼女のことを放っておくことが出来ずに、霧街をその他の仲間達を見捨てて、ハクを探していた。ラスが霧城中に張り巡らせた感知の術……それがどの様な仕組みなのかは理解できなかったが、侵入者を感知すると念鏡に霧城の図面が表示されて、侵入者の位置が判るのだ。そのような術はこれまでに聞いたことがなかったし、僅か数時間でそのような仕組みを霧城全体に施したことも信じられなかった。詳細を尋ねるロイにラスは、システムを触ったとだけ伝えた……の反応が地下牢に近づくのを見て、誰かが投獄されている仲間を助けに向かっていると推察したロイは、その誰かを牢番であるラスから守るためにここに現れたのだ。


 (良く無事で居てくれた。)


 ロイは救われる気持ちだった。烏頭鬼との戦いの中で多くの仲間を失った。ハクもその一人になるのでは無いかという恐怖とずっと戦ってきた。でも、ハクは生きていてくれた。今までどこに居たのだろうか?何をしていたのだろうか。彼女のことを知りたかったし、霧街の現状の相談もしたかった。得体の知れない、最悪に強いラスに霧城が翻弄されていることについて。津波のような感情の塊が一瞬でロイの胸中を駆け抜けて、最後に残った感情はやはり、愛してる、だった。ロイは口を開く。


 「どこで遊んでたんだよ。すごい匂いだぞ。」


 ハクは、久しぶりに再開した幼なじみのその言葉が何故かくすぐったく、眉の辺りをぽりぽりと掻いた。混乱の中心に放り込まれたままだったが、ロイの登場でハクもまた……少しだけ、救われた。



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