第二話 夜の半分 2
ハクは霧城の地下、深く深くを進んでいた。渦翁が彼女のために命がけで用意した平和な生活を彼女は選択しなかった。烏頭鬼達との最後の戦の騒乱に乗じて、再び霧城に舞い戻ったのだ。彼女は、誰にも気付かれないように作戦を練った。彼女は評議会で霧城の改修に関するプロジェクトに関わっていた為、彼女の目的を果たすために作戦を立てることが出来たし、いくつかのオプションを検討することも出来た。そして、ハクは開戦から四日目の朝に行動を起こした。霧城を取り囲む堀の下をくぐる形で、霧城から出される汚水を流す為の下水道があった。汚水は霧街を通らずに街の外へと排出される。霧街の西の外れにある排出口の鉄柵を外してハクは忍び込んだのだ。ハクは息を殺して下水道を進む。頼りないランタンの光だけを頼りに深く深く潜っていく。
(みんな、待っててね。今行くから。)
純白の体毛が下水道の汚水に穢されるのも構わずにハクは進んでいた。柔らかい身体をしならせて、ハクは奥へ奥へと進む。彼女の身体は濡れて汚物に塗れていた。ハクはただただ先を急いだ。自身が受けた仕打ちを思えば、サカゲ達が現在どの様な境遇にあるかは容易に想像できた。霧街の為に命を賭けて闇穴に飛び込んだ仲間達が、地下牢で水も食料も与えられず、つまり、消極的な極刑を実行されているのだ。ハクの状況を理解した渦翁が、皆の状況を推察して、何かの対策を打っているかも知れない。だが、確信はないし、例え充分な扱いであっても、地下牢からは開放しなくてはいけない。ハクは自身が繋がれていた部屋にサカゲ達が居なかったことから、拘束された仲間は全員投獄されたままだと判断していた。救い出すなら、戦が激しさを増した今しかない。ハクは急ぐ。ハクは排出口を見つけると直ぐに下水道に忍び込んだ。人化と獣化をうまく使い分けて彼女は進む。ハクは狭く不衛生な空間を可能であれば走り、不可能であれば腹ばいになって進んだ。首筋に絡まってくる長く脚の多い蟲や、足下に絡むぶよぶよとした血吸い蛆などに噛まれたり刺されたりしながらも、彼女は進んだ。そして遂に最下層の汚物処理部屋に到達した。彼女はその気色の悪い部屋の最も汚い穴から、頭を出した。部屋の中はゴミだらけで、元が何だったか判らないような腐乱した動物の死骸や何が出てくるか判らないような細かな卵も無数にあった。ハクはそれらの不浄なものに怯むこと無く周囲を探った。この部屋にどれだけ汚らわしいもので溢れていようと、どんな疫病が蔓延っていようと大した問題では無かった。彼女は彼女のゴールだけを見据えていた。
(絶対にみんなを連れて帰るんだから。)
最悪の穢れの中にあってもその情熱は純粋で、彼女の瞳はキラキラと輝いていた。




