第二十二話 舞闘 1
「さぁ!それでは始めようか!我らがアイドル!最後の子等の登場だ!」
シャウトの紹介に合わせて、クウ達が舞闘場に現れる。舞闘場と観客席の1階は地面から10メートル程の高さにある。舞闘場に上がるには地面に設置してある闘上石の上に立つ必要がある。闘上石は直径2メートルの黒く平たい石のような物質で作られている。そこに立ち、戦いの決意を行えば舞闘場に転送されるのだ。今、クウ達、最後の子等は転送された。
クウはお気に入りのオーバーオールに継ぎ接ぎの鉄錫、ハクは短いワンピースに裸足……本気の証拠だ……で、ロイはいつものパーカーに巨大な石槌を担いでいる。幼生特有の透き通るような淡い肌と低い鼻が愛らしい。舞闘場を愛想よく手を振り歩くハクに歓声が答える。
「はしゃぐなよ、ハク。来たぞ。」
殺気だった表情のロイが見つめる先に暁の王者、蜘蛛のモルフ、セアカが現れる。人化状態だ。ロイはムッとする。最も戦闘に不向きな人化状態で参加するなんて完全に馬鹿にしている。観客もそれに気づき、セアカに歓声とヤジを向ける。
「やなカンジ。」
「いいじゃん。別に。どっちにしてもやっつけちゃうし。」
「だな。作戦通り行くぞ。」
3人の幼馴染はちらりと目くばせをして、楽しそうに笑った。その肝の据わり方に観客は声援を送る。もちろんセアカは気に入らない。彼の後ろに立つ青大将のモルフ……上半身は人、下半身は蛇の姿だ……ジャジャが舌打ちをする。ちっ、ちっちっちっ。
「完全に舐めてますね。あいつら。」
人の体に狐の頭部を持つ、キタキツネのモルフ、ナリも同意して唸り声を漏らした。セアカは、八つ目を光らせて、冷たい笑みをこぼす。
(何だっていい。勝つのは俺だ。狩猟隊なんてくだらない。世界。世界だ。俺にとって重要なのはその帰趨だけだ。グワイガも黒丸も知ったことか。いずれ全員倒してやる。)
舞闘場に上がった六人は直径五十メートルの舞闘場の外周に立ち、開戦の銅鑼を待った。風が舞闘場で渦を巻く。進行役のシャウトは調子に乗ってしゃべり続け、いつ試合が始まるのかわからない状態だ。そもそも彼は自分の話を沢山の人に聞いてもらえればそれでいいのだ。
「セアカめ。本気でクウ達を倒す気だ。」
舞踏会係員用にある一階の観客席で、グワイガが呟く。隣には狼のモルフ、サカゲがいる。サカゲもグワイガに同意だ。
「蛇の眼と自失か。実戦経験の少ないエイラ達には対処出来ないだろうな。」
ジャジャの蛇の眼も、ナリの自失も精神に働きかける上術だ。蛇の眼は体の自由を奪い、自失は直近の記憶を消す。余程戦いの経験が豊富でなければ、そのような状況には対処できない。火力でごり押しするタイプであれば、身体能力のきわめて高いクウ達にも勝機はあるが、精神異常を誘う術には対応できないだろう。ジャジャもナリもまだ若いが共に技と術を使いこなす練術者で第七階層に属している。大した技も術も使えない第九階層の幼生達に当てる相手ではない。弄んだ上で完全に叩き潰すつもりなのだろう。サカゲは気に入らなかった。正直、狩りでは役に立たない上にエイラいじめとは呆れるばかりだ。だが、試合は試合だ。勝てばいい。まぁ、見させてもらおうか。
「では、いよいよ!いーよーいーよ!お待ちかねのエイラ対暁王者との舞闘を始めたいと思うが、しかし、しかししかし、皆さん!もう少しこの私の話を聞いて欲しい。彼ら最後の子の前に初めて最後の子と呼ばれたエイラ達がいたことを覚えているだろうか?それがここにいる天才セアカと、ああ、あの未開のシキだ!何という運命だろうか?彼がファンブ……
シャウトの話を聞き飽きたダイガッパが右手を挙げた。唐突に開戦の銅鑼が鳴る。久しぶりにシキの名を他人の口から聞いたクウは少し動揺して、僅かに出遅れた。ジャジャとナリは既に舞闘場の中央に飛び出してきている。セアカはそれに続く。暁の二人は、それぞれの上術の射程範囲まで接近したいのだ。クウに先駆けてロイが石槌を振りかざし、二人に接近する。彼等は笑い、目くばせをする。
(ちょろいな。向こうから射程内に飛び込んでくるぜ?)
ロイの石槌の射程より、術射程のほうが広い。術射程に入り次第、ジャジャが蛇の眼の術をかけてロイの動きを封じた上でナリが噛み殺す。三対二になってしまえば、どうとでもなる。開戦の一瞬ですべてが決まるのだ。そしてロイが術射程に入るその直前、ロイは石槌を振るった。舞闘場に向けて。とてもエイラの技とは思えない強力さでロイは舞闘場を打ち砕いた。舞闘場の破片を喰らい一瞬ジャジャとナリの動きが止まったのをロイは見逃さない。続けてもう一度舞闘場を打ち据える。今度は敵の方向に向かって。先程とは比べられない程の石片と粉塵が巻き上がり舞闘場中央部は何も見えなくなった。
「ジャジャ!一旦、下がるぞ!」




