第二十一話 霧城の決戦 6。
霧街はモルフ達の多様性を生かしてその個性を最大限に活用する戦略に出ていた。ブルーネは確かに総合的な舞闘力ではグワイガに遠く及ばない。しかし、ある一点だけを見れば彼にも誰にも負けない舞闘が出来るのだ。塵輪は目の前で半獣状態で不敵な笑みを浮かべるブルーネの舞闘力を読み取り、標的を変える。反り返った薄く鋭い刀剣を左右からブルーネに打ち込む。突然の攻撃に味方の烏頭鬼達が巻き込まれ切断される。
「はっ!」
ブルーネは笑い、漆黒の爪を備えた強力な足技を放つ。
真技居合!!
ブルーネの脚から鉄紺の斬撃が飛び、塵輪の刀剣を粉砕した。驚き怒る塵輪は毒脚を繰り出してブルーネを仕留めようとするが、またもブルーネの居合が放たれ、塵輪の毒爪を粉砕する。塵輪は体勢を崩して、膝を着き、腕で身体を支えた。
「まぁ、正直、今日みたいな混戦は苦手なのよ。でも一対一で技の破壊力勝負なら負けねぇぜ。ぶっちゃけ、俺の居合はグワイガさんの技より強えぞ。」
言ってブルーネは居合を放つ。鉄紺の斬撃は塵輪の体重を支えていた右腕を粉砕して消滅させた。塵輪は轟音と供に倒れ込む。ブルーネはひょいと塵輪の身体を躱して、鬼の頭部に彼の凶悪な脚爪を置く。
「遅いし無駄だらけだ。魂力は集中させてなんぼだな。じゃぁな。」
ブルーネは、正に鬼の形相で睨む塵輪を怯むこと無く握り潰した。異変に気付いた三面六臂はブルーネに襲いかかろうとするが、ヒクイドリモルフはひらりと身を躱し、混戦に紛れ込んだ。乱戦の中、三面六臂と多対一の戦いをこなせるほど、彼は強くない。一対一の刹那の舞闘でこそ彼はその真価を発揮するのだ。後は、皆と一緒に雑兵を潰していくことに集中するのだ。
「さすが、絶対断絶のブルーネだ。」
塵輪が倒れる轟音を背後に聞きながら、バーリは走り続けていた。目標はこの群の中心部だ。霧街の門を過ぎて直ぐにバーリは目的地に到着したことを察した。
「では、俺も役目を果たそうか!」
完全獣化していたバーリは大きく息を吸い、魂気を整えて発した。
真術 黒獅子王!!
一瞬でバーリは半獣化した。獅子の頭部を持つヒトの姿となる。この状態の彼は血を欲する狂乱の狩人であり、その黒鬣からは敵意を持つ者を蝕む疫病がばらまかれる。黒い影がバーリを覆う。彼が一対一で塵輪に挑んでも勝目は無いだろう。だが百人だろうが千人だろうが烏頭鬼兵であれば、どれだけでも倒すことが出来る。
影爪!!
バーリは烏頭鬼の群に向けた掌を握る。同時に無数の黒い爪が烏頭鬼の影から飛び出して影の主を引き裂く。塵輪であればかすり傷だが、烏頭鬼兵であれば大怪我だ。血を吹き出して倒れ込む。
「影に怯えて、血の上で踊れ。」
バーリは残酷な笑みを浮かべて烏頭鬼の群に突っ込んだ。この時彼の後方に展開していた自軍も完全に烏頭鬼の群と混ざり、壮絶な殺し合いが始まった。




