第十四話 霧街に隠されたモノ 10。
……誰がそれを実行したのだろうか。
霧街に住むモルフ達の多くは式神と呼ばれる、僕を従えていた。式神は主人の命令にしか従わない。パン屋のコクトーも噂好きの三つ子のティーチャー達でさえ式神を従えていた。つまり、アリバイは証明のしようがなく、そもそも確認されることも無かった。何か事件が起こった場合、重要なのは動機だった。モルフが従える式神達が言葉を交わし、目的を達成した後に命を絶ってしまったとして、それをどう証明出来るだろうか?モルフ直接の犯罪でも困難なのにそれが従える無数の式神が犯人である場合、どうやってそれを証明する事が出来るのだろうか。皆、それを理解していた。今回のラスの隠れ家を襲ったのは式神を持つ誰かだと。だが、これは犯人を絞り込む要素とはならず、初めて登場した誰かの仕業なのではないかと噂が走りまわっていた。
ふと、ハクは目を覚ました。暗闇の中だ。直感したのは、死……彼女はラスに逆らったせいで霧城の地下に投獄されていた。牢獄は練術を無効化する印が結ばれており、彼女の強力な霹靂も召喚することは出来なかった。ハクは壁を伝う汚れた水だけを頼りに一週間をそこで過ごした。非人道的な扱いだったが、誰も助けには来なかった。彼女は痩せ細り、しなやかな身体も艶やかな毛並みもその魅力を大きく減じて、全てが失われようとしていた時に彼は現れた。ニヤニヤ笑いを浮かべた、ラスが。彼は、薬草の煙でハクを困惑させ連れ去った。次にハクに意識が戻った時は天井から下げられた鎖に繋がれ、吊されており、身体のどこにも力が入らない状態だった。背中に激痛が走っていた。止むことの無い激痛だった。身動きの出来ない彼女は、周囲を見て背中の激痛の意味を知った。
皆、背中を切り裂かれ、脳髄を身体から引き出されていた。
ハクは、直後に意識を失った。そして激痛の夢の中でラスから様々な狂気を囁かれていた。今、眼を覚ましたハクにはその詳細は想い出せなかった。でも、それは完全に狂っていて世界の死を加速させる思想であることは明確に覚えていた。久しぶりの光に慣れ始めたハクの瞳は外界を認識し始めた。
「……星?」




